シシバナザル(英語表記)snub-nosed monkey

改訂新版 世界大百科事典 「シシバナザル」の意味・わかりやすい解説

シシバナザル
snub-nosed monkey

霊長目オナガザル科シシバナザル属Rhinopithecusに属する旧世界ザルの総称。鼻がしゃくれ上がってしし鼻のように見えるためにこの名がつけられた。これと似た鼻をもつ別属のメンタウェーシシバナザルSimias concolorをも含めることがある。シシバナザル属は中国西部に生息するチベットシシバナザルR.roxellanaeとベトナム北部に生息するトンキンシシバナザルR.avunculusの2種を含むが,前者をさらに3種に分ける学者もいる。そのうちの一型は,背は灰褐色だが,額と胸と四肢の内側に美しい黄金色の毛をもつことからゴールデンモンキーとして知られ,中国では金糸猴と呼ばれている。トンキンシシバナザルは,額,のど,ほお毛が白く,背は黒っぽい。両種ともコロブス亜科に属するが,同亜科の他の種とは異なりずんぐりとした体で四肢は短く,全身に長い毛が密生し,太く長い尾をもつ。頭胴長は雄が約70cm,雌が約60cm。寒地によく適応している。果実や木の葉,新芽タケノコを食べるが,高地にすむチベットシシバナザルは針葉樹の葉を主食にしているという報告がある。複雄複雌の群れをつくって生活する。中国以外の動物園での飼育例はない。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シシバナザル」の意味・わかりやすい解説

シシバナザル
ししばなざる / 獅子鼻猿
snub-nosed monkey

哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科シシバナザル属に含まれる動物の総称。イボハナザルともいう。この属Rhinopithecusには、中国西部のチベットシシバナザルR. roxellanaeと、ベトナム北部のトンキンシシバナザルR. avunculusの2種がある。前者は顔の周囲と腹部が黄金色の長毛で覆われているのでキンシコウ(金糸猴)ともいわれ、かなりの高冷地にもすむが、後者は低地の多雨林にすむ。ともに体長70センチメートル、尾長80センチメートル。鼻孔が三角形でむしろ上向きに開口し、上顎(じょうがく)口唇に1対のいぼがあり、特異な容貌(ようぼう)をもつ。このしゃくれた鼻が和名の由来である。ドゥクモンキーPygathrix nemaeus近縁で、同じ属に含まれることもある。スマトラ島の西方ムンタワイ(メンタウェー)諸島Mentawaiによく似た容貌をもつメンタウェーシシバナザルSimias concolorがすんでいるが、これは尾が短く、テングザルNasalis larvatusに近縁である。

[川中健二]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のシシバナザルの言及

【サル(猿)】より

…小説《西遊記》に登場するサル孫悟空は,宋代以降にわかに優勢になった猴の代表者であるが,そのイメージには,猿をめぐる伝承も,また遠くインドのハヌマットの要素も,ともに揺曳(ようえい)している。中国の奥地の山中にすむシシバナザル(金糸猴,仰鼻猴)も,その美しい金毛や特異な容貌(青い顔とあおむきの鼻孔)のゆえに多くの伝説をもっているし,野人,野女と呼ばれる猿も,今日まで話題を提供し続けている。【中野 美代子】
[日本の民俗]
 日本の猿は尾が短く体も小さくて猴と書くべき種類に属する。…

※「シシバナザル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android