シャコガイ(読み)しゃこがい(英語表記)giant clam

改訂新版 世界大百科事典 「シャコガイ」の意味・わかりやすい解説

シャコガイ (硨磲貝)

シャコガイ科シャコガイ属Tridacnaの5種の二枚貝の総称であるが,とくにオオジャコガイを指すこともある。この仲間は大型で熱帯太平洋インド洋サンゴ礁にすむ。殻は厚くて表面には殻頂から太くて低い肋が出て波状になり,ときに肋の上にひれ状の突起が並ぶ。ふつうの二枚貝とは逆に,殻の開く腹側を上にしてサンゴ礁の上やサンゴ礁に穴を掘って中に入ったりしている。軟体は殻の中で上下逆になっており,えらも背側にある。移動しないので足はあまり発達せず小さく,ふつうの貝と逆側にあり,そこから地物に付着するための足糸を出している。殻をとじる筋肉は,後側のものが大きくて中央に寄り,前側のは退化している。体を包む外套がいとう)はよく発達しており,それを殻の外にのび出している。その組織内に褐虫藻Zooxanthellaが共生していて,濃紺褐色などシャコガイの種類によっていろいろな色になっている。シャコガイはプランクトンも食べるが,また褐色藻が日光にあたると炭酸同化作用を行い,それでできる酸素とブドウ糖などをシャコに提供する。またシャコガイからは炭酸ガスや代謝老廃物の供給をうける。そのため外套には光を集めるためのレンズ型の組織もある。暗黒状態でシャコガイを飼育すると褐虫藻は脱け出して外套膜は色を失う。生殖期は夏。雌雄同体であるが,小さいときは雄で大きくなると雌の傾向が強くなる。

 オオジャコガイT.gigas英名giant clam)は世界最大の二枚貝で,殻の長さ1.37m,重量230kgの記録がある。通常は長さ75cm,高さ45cmくらいになる。殻表には強くて太い肋が波状にある。幼貝のときは肋上に小さいひれ状の突起がある。内面白色。両殻の間の足糸の開口を欠くが,幼貝では小さい足糸開口もある。したがって成貝ではサンゴ礁に付着することができず転がったり,その隙間に入ったりしている。沖縄以南の熱帯太平洋中西部に分布する。殻は七宝の一つにも数えられ,ヨーロッパでは洗礼盤として教会の入口に置かれる。

 ヒレジャコガイT.squamosaは殻の長さ40cm,高さ32cm,膨らみ28cmに達する。殻表に太い5本の肋があり,その上に著しいひれ状の突起が並ぶ。両殻の間の足糸開口は大きい。四国以南の中部太平洋からインド洋まで広く分布する。幼貝は橙黄色で美しい。

 シラナミガイ(白浪貝)T.maximaは殻の長さ約33cm,高さ約18cm,膨らみ約18.5cmに達する。横長で表面に通常6~7本の太い肋があり,その上にひれ状の突起がある。足糸開口は大きい。奄美諸島,小笠原諸島以南の太平洋中西部からインド洋に広く分布する。

 ヒメジャコガイT.croceaの殻は前種に似るが短く,長さ約15cm,高さ約10.5cm,膨らみ約7.5cmに達する。肋は低く,肋上のひれ状突起も弱い。足糸開口は大きい。紀伊半島以南の太平洋中西部に分布する。サンゴ礁に穴をあけてその中にすむので英名でboring clamといわれる。沖縄では採取して食用にする。

 ヒレナシシャコガイT.derasaは殻の長さ約50cm,高さ約29cm,膨らみ約31cmに達する。放射肋は低く弱い。太平洋中西部に分布するが日本には産しない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャコガイ」の意味・わかりやすい解説

シャコガイ
しゃこがい / 硨磲貝
giant clam

軟体動物門二枚貝綱シャコガイ科に属する二枚貝の総称。この科Tridacnidaeは、西太平洋、インド洋に7種が分布する。殻は大形で厚く、前後に長い卵形。殻表には太い放射肋(ろく)があり、その上では成長脈は立ち上がり、ときにはひれ状突起となっている。腹縁には放射肋に応じて波状の凹凸がある。軟体は一般の二枚貝類と上下が逆の体制になっていて、足糸は前背縁の大きな足糸窩(か)から出る。また、後閉殻筋が中央に寄っていて、前閉殻筋を欠いている。外套膜(がいとうまく)には単細胞の藻類ズーサンテラZooxanthellaが共生し、シャコガイは共生藻類の光合成に都合のよいように腹を上に向け、外套膜縁を殻の外に広げている。その外套膜縁には、光を感じると思われるレンズのある眼点がある。共生藻類はシャコガイによってすみ場所が与えられ、シャコガイは光合成によって生じる酸素と栄養分を利用しているものと思われる。共生藻類の光合成のできなくなる水深40メートル付近がシャコガイの生息深度の限界である。

 オオジャコガイTridacna gigasは世界最大の二枚貝で、最大殻長1.4メートル、重量230キログラムになる。殻表の放射肋は高く、腹縁は鋭い。成貝では足糸開口を欠いている。殻は大形で深いため、現地人は水盤などに利用した。また、サンゴなどとともに仏教経典では七宝(しちほう)の一つに数えられた。ヨーロッパでは聖水盤として教会の入口に置かれ、洗礼に用いられる。沖縄以南に分布する。ヒレナシジャコガイT. derasaは殻長50センチメートル、殻幅、殻高とも30センチメートルに達し、やや前後に長い。放射肋は低く、その上にひれ状突起はほとんど立たない。ミクロネシアに分布する。ヒレジャコガイT. squamosaは殻長20センチメートル、殻高、殻幅ともに14センチメートルほどである。殻表の5本の太い放射肋の上には大きいひれ状突起がある。足糸開口は大きい。四国の太平洋岸以南に分布する。ヒメジャコガイT. croceaの殻は卵円形で、殻長10センチメートル、殻高7センチメートル、殻幅4センチメートルほどしかない。シャコガイ類中もっとも小形種である。殻表の放射肋は低く、この上に数多くの低い鱗片(りんぺん)がある。殻色は白色のみならず、象牙(ぞうげ)色、黄色、橙(だいだい)色などになる。足糸開口部は広い。サンゴの中に埋もれて生活し、外套膜のみを穴の上に広げている。紀伊半島以南のサンゴ礁にすみ、沖縄では本種を食用としている。シラナミガイ(ナガジャコガイ)T. maximaは殻長20センチメートル、殻高、殻幅とも10.5センチメートルである。殻は前後に長く、殻表には太い放射肋が6本あり、この上に鋭いが低い鱗片状突起がある。殻は白色で、ヒメジャコガイのような色彩をもつことはない。足糸開口は広く、そこから堅固な足糸を出し、サンゴや岩上に固着する。

 シャコガイ科には以上の5種のほか、シャゴウガイHippopus hippopusおよびミガキシャゴウガイ(チャイナ・クラム)H. porcellanusの2種が属している。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シャコガイ」の意味・わかりやすい解説

シャコガイ
Tridacnidae; giant clam

軟体動物門二枚貝綱シャコガイ科の貝の総称。6種から成る。殻は大きく,重厚堅固。殻表には太い放射肋があり,肋上に鱗状突起を生じることもある。他の二枚貝類と異なり,生時は殻頂を下にして造礁サンゴ類の上にすむので軟体は上下逆になり,両殻の前縁の間から足糸を出して地物に付着し,後閉殻筋は中央に移り,前閉殻筋を欠く。外套膜には藻類 Zooxanthellaが共生しており,殻の間から外套膜を出して日光に当てて藻類に同化作用をさせる。外套膜には光を集めるためのレンズ状の構造があり,藻類のため黒や青などに彩られている。太平洋,インド洋のサンゴ礁に分布する。なお,本科に含まれるオオジャコガイ Tridacna gigasは世界最大の二枚貝で,通常殻長 45cm,殻高 30cmほどであるが,殻長 140cm,重さ 230kgにもなるものもある。沖縄以南のサンゴ礁に分布しており,殻は現地住民が貯水のための水盤としたほか,教会では聖盤として洗礼に用いた。ほかにヒレジャコガイ T. squamosa,シラナミガイ T. maximaなどがある。

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百科事典マイペディア 「シャコガイ」の意味・わかりやすい解説

シャコガイ

シャコガイ科の二枚貝。オオジャコガイは世界最大の貝で長さ1.37m,重さ230kgの記録がある。扇を広げたような形で5本の太い波状の放射肋(ろく)がある。殻表は灰白色。沖縄以南,インド洋・西太平洋までのサンゴ礁にすみ,外套(がいとう)膜にゾーキサンテラという藻類が共生してあざやかな黒,青,緑等の色になる。食用。殻は水がめ,水盤,置物などに利用。ヒレジャコガイ,ヒメジャコガイ等小型の近縁種は紀伊半島,四国以南,奄美(あまみ)のサンゴ礁にも分布する。

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