改訂新版 世界大百科事典 「シャコ」の意味・わかりやすい解説
シャコ (蝦蛄)
mantis shrimp
口脚目シャコ科の甲殻類。広義には口脚類Stomatopoda一般を指す呼称としても用いられる。シャコOratosquilla oratoriaは体長15cmくらい。北海道以南~中国沿岸に分布し,内湾の砂泥底にすむ。日本沿岸にもっともふつうで,大量に漁獲され,他のごく近似の種類とともに食用とされる。生きているときは体表には灰白色の地に暗色の小点が散在しているが,煮るとエビやカニのように赤くならずに赤紫色になる。強大な捕脚(第2顎脚)の指節内縁に6~7本の鋭いとげがある。腹肢は葉状で,遊泳用であるが,その外肢の内側に樹枝状のえらがついている。雌雄ともに同様な形,色彩をしているが,雄では最後の歩脚の基部内側に生殖孔の部分が長く伸長してできた陰茎があり,第1腹肢が交尾器に変形している。雌では第6胸節腹面の中ほどに生殖孔が開き,卵巣の熟した雌では腹部が淡黄色をしている。尾節と尾肢はよく発達し,ともにがんじょうな尾扇を形成する。これは有力な遊泳器官の一つでもあり,これを用いて砂泥底に坑道を掘り,その中にすんでいる。
夜行性で,夜間この坑道を出て,強大な捕脚を用いて,魚類,甲殻類,ゴカイ類や頭足類などを捕食する。産卵期は5~11月で,産卵後,雌は3対の顎脚で口の付近に卵塊を抱え,坑道内で保育する。胚は卵内でノープリウス期を過ごし,ゾエア期に相当する幼生期で孵化(ふか)する。
口脚類の初期幼生には二つの型がある。シャコを含むシャコ科とこれにごく近いものでは,アリマalima型幼生と呼ばれ,体は細長く,短く幅広い背甲をもつが,他の口脚類のものでは,エリクタスerichthus型幼生と呼ばれ,体は少し幅広く,細長く幅狭い背甲をもつ。互いに異なった幼生型を示すが,両型とも5回ほどの脱皮の後には,共通な最後の幼生期のシンゾエアsynzoea期となり,顎脚,歩脚,腹肢なども成体によく似た形となる。この後,底生性のストマトポディトstomatopodit期となり,背甲のとげが消えて,しだいに成体に近づく。寿命は4年くらいと思われている。シャコ類の幼生は昼間の中層や夜間の表層より集めたプランクトン中によく見られるが,カタクチイワシの稚魚を煮干しにした白子干し(しらすぼし)にも,ゾエアやメガロパといった他の甲殻類の幼生や稚魚などとともによく混じっているのが見られる。
ミナミシャコO.kempeiは一時シャコの南方型と考えられていたが,第7胸節側縁の前棘(ぜんきよく)がないか,または不明りょうであること,および第2腹節背面に大きな黒斑を有するなどでシャコと相違している。瀬戸内海以南より華南沿岸に分布している。トゲシャコHarpiosquilla raphideaは体長30cmに達し,口脚類中最大の種で,本州中部以南より,マレー諸島,インド洋に分布している。
執筆者:蒲生 重男
シャコ (鷓鴣)
広義には,キジ目キジ科の鳥の中でウズラ類よりも大型でキジ類よりも小型の種類の総称として用いる。狭義にはキジ科シャコ属Francolinusに含まれる41種を指す。かつてはコモンシャコF.pintadenusおよびドーリアヤマウズラPerdix dauuricaeをシャコと呼んでいたこともある。広義のシャコ類では,北アメリカ(南アメリカ北部を含む)に分布するアメリカウズラ類と,ユーラシア,アフリカに分布するシャコ類(シャコ属を含む)とに大別できる。
アメリカウズラ類中著名な種はコリンウズラColinus virginianus(英名bobwhite)で,その名のとおりボブホワイトと鳴き,狩猟鳥として重要である。体長は約25cmで,羽色は赤茶色に黒い横斑がある。北アメリカ中部のおもに原野や畑にすみ,繁殖期にはなわばりをもち,冬期は群れでくらす。1腹の卵数は約15個,抱卵日数は23日間。雛は孵化(ふか)後すぐに巣を離れる。食物は植物の種子のほか,昆虫類も食べるので農業上有益である。ユーラシア,アフリカに分布するシャコ類は,岩地,草原,灌木林,竹林,森林,耕地とさまざまな環境に,それぞれの環境に適応した種が局地的に分布している。コモンシャコは体長約30cmで,中国南部の低地の灌木林に数羽の小群で生息し,昆虫や植物の種子などをおもに食べている。繁殖期には地上に巣をつくり,3~6個の淡い黄色の卵を産み,21日間抱卵する。狩猟鳥として好まれる。ヤマウズラ類は,ヨーロッパヤマウズラPerdix perdix(英名gray partridge)が狩猟鳥として著名。このほかには,山地の乾燥した岩地性の小灌木にすむイワシャコ類(Alectoris属),ヒマラヤ山系の雪上にすむユキシャコLerwa lerwa(英名snow partridge),カフカスからアルタイ,チベット,ヒマラヤ山系の雪線の下の荒れた草地にすむセッケイTetraogallus属(英名snow-cock)などがいる。
執筆者:柿沢 亮三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報