シルエット(読み)しるえっと(英語表記)silhouette フランス語

精選版 日本国語大辞典 「シルエット」の意味・読み・例文・類語

シルエット

〘名〙 (silhouette)
輪郭だけを描き、中を黒く塗りつぶした絵。
※Kの昇天(1926)〈梶井基次郎〉「朝海の真向から昇る太陽の光で作ったのだといふ、等身のシルウエットを幾枚か持ってゐました」
② 影。影法師
※道程(1914)〈高村光太郎〉師走十日「出語り新内の黒きシルウエットは ロダンのカレエ市民の群像をつくり」
③ 輪郭。特に、身体や洋服などの輪郭をいう。

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デジタル大辞泉 「シルエット」の意味・読み・例文・類語

シルエット(〈フランス〉silhouette)

《極端な倹約策を行った18世紀のフランスの蔵相Silhouetteの名からという》
横顔などの輪郭を描いて、中を黒く塗りつぶした絵。影絵。
後方から光が当たって浮かび上がった風景や人物などの輪郭。
一般に、物の輪郭。全体の形。アウトライン。「洋服のシルエット
[補説]書名別項。→シルエット
[類語](1影法師陰影投影暗影人影射影斜影倒影シャドー/(2輪郭

シルエット[書名]

島本理生の小説。高校在学中の平成13年(2001)に第44回群像新人文学賞優秀作を受賞した、著者のデビュー作。女子高生視点から、人を強く求める気持ちを描いた恋愛小説

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シルエット」の意味・わかりやすい解説

シルエット
しるえっと
silhouette フランス語

輪郭の内側を塗りつぶした単色画像。影絵。広義には旧石器時代洞窟(どうくつ)画や、ギリシアエトルリアの壺絵(つぼえ)にも同種の画像があるが、語源は、18世紀フランスで緊縮財政策をとった蔵相エティエンヌ・ド・シルエットÉtienne de Silhouette(1709―67)が、切絵による横顔の肖像画、狭義のシルエットを好み、自身でも趣味として制作したことによる。当時「シルエット」には「安上がり」の意が込められていたという。18世紀なかばから19世紀なかばにこの簡便で安価な影絵は全ヨーロッパ的に流行した。専門画家としてイギリスのジョン・マイアースJ. Miersが著名。また文豪ゲーテも愛好したといわれている。しかし写真術の出現により衰微した。

[大井健地]

 服飾用語としては、一般には着装時の服の形や全体的調子を表す外郭線をさし、流行の服の形態やデザインを表すものでもある。シルエットは服装の身上(しんじょう)であり、これをもっとも効果的に創造するため、生地(きじ)、構成的・装飾的要素などが考慮される。さらにそれをよりよく生かした状態で着装できるよう、下着が大きな役割を果たすこともある。また、近世において女性が用いた、腰を不自然に締め付けるコルセットや、ヒップ・ライン以下を極端に膨らませるための腰枠、腰当て、詰め物などもシルエットを強調するためのものだった。服自体に詰め物をすることもある。

 服装のシルエットは実に多種多様である。とくに女性の服装においては、何人かの学者がその分類を試み、それらを直線形、釣鐘形、それに腰当てを使ったバッスル形に(アメリカのヤングA. Youngの説)、あるいは楕円(だえん)形、四角形、三角形、砂時計形に(フェザーストンM. FetherstoneとマークD. H. Maackの説)、あるいはテーラード形、ドレープ形に(モートンG. Mortonの説)、また流動線形、ふっくら形、箱形、T形、シュミーズ形、バックフレア形に(ヒルハウスHilhouseとマリオンMarionの説)大別している。男子服をも含めてとらえたカニングトンC. W. Cunningtonは、婦人服はX字形、男子服はH字形だとしている。X字の交差する点をウエストとし、その高さ、角度の相対的変化のなかでの組合せによって、すべてのシルエットがとらえられるというものである。これをスカートだけについていえば、落下傘形のブファン(ファージンゲール、フープ、クリノリンなどが含まれる)、裾(すそ)がらっぱ状に膨らむギブソン・ガール形、これが背面のヒップで強調されたバッスル形、直線形とに分けられる。H字形とされた男子服は、上着とズボンとの組合せを一タイプとしてとらえられている。

 X字型とした婦人服の上下のシルエットは各時代によって変化し、時代を特徴づけるものだが、その形から直線形、曲線形に分類できる。

 このほかに、服の構成上の特徴からとらえたシルエットがある。シャツウエスト・シルエット(襟元からスカートの裾までボタン留めになった服の外形)、ドレープ・ド・シルエット(全体にドレープを取り入れた服の外形)、ティアー・シルエット(段々飾りのある服の外形)などがそれである。

[田村芳子]

『石山彰編『服飾辞典』(1972・ダヴィッド社)』『服装文化協会編『服飾大百科事典』(1976・文化出版局)』『E. Nevill JacksonThe History of Silhouettes(1911, The Connoisseur, London)』


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改訂新版 世界大百科事典 「シルエット」の意味・わかりやすい解説

シルエット
silhouette

通常白地に黒でくっきりした輪郭の図を表した単色画の総称で,狭義にはその中の単色プロフィル肖像画をさす。この形式の肖像画は,強い光を受けた人物の横顔が紙面に投ずる影を写しとり,しばしば機械的手段で縮小して作られる簡単,安価なもので,18世紀半ばから19世紀半ばにかけてヨーロッパ中で流行をみた。それには,簡潔な輪郭線による側面観の把握が時代の新古典主義的趣味にかない,人相学者ラーファターが《人相学論考》の図解に用いたことも手伝っている。19世紀にはいると紙を直接切り抜くシルエットがさかんとなり,全身像で動きを伴った作品も作られる。しかし,小型で安価で簡便な肖像画の形式としてのシルエットは,1850年ごろ写真が一般化したことにより決定的打撃をうけた。なお,シルエットという語はフランスの財政監査官ド・シルエットÉtienne de Silhouette伯爵(1709-67)の名に由来するが,その理由として吝嗇家の伯爵が単色肖像画しか飾らなかったという説があるものの,確かではない。
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百科事典マイペディア 「シルエット」の意味・わかりやすい解説

シルエット

元来は黒紙を用いた切紙細工の人物肖像。のち影絵一般をさすようになった。18世紀フランスの財政監督官シルエットEtienne de Silhouette〔1709-1767〕の緊縮財政策により,高価な絵具を使わず切紙細工の人物肖像や黒く塗りつぶし,輪郭を主とした人物肖像画が流行したことからこの名が起こったといわれる。
→関連項目切紙細工

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とっさの日本語便利帳 「シルエット」の解説

シルエット

エティエンヌ・ド・シルエット(Etienne de Silhouette。一七〇九~六七)▼フランスの政治家で、一七五九年にわずか八カ月間だけ大蔵大臣を務めるが、その際、財政窮乏を打開するために極端な倹約政策を採用した。それが貴族たちの怒りを招き、世間は彼の束の間の在任期間を嘲笑し、ただ輪郭だけの実体のない人間と評した。また、徹底した倹約政策として、肖像画は黒一色で描くように指示した。さらに、切り紙細工で輪郭だけの肖像(影絵)を作ることが彼の趣味だった――などの説がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シルエット」の意味・わかりやすい解説

シルエット
Silhouette, Étienne de

[生]1709. リモージュ
[没]1767. ブリーシュルマルヌ
フランスの政治家。財務総監 (在任 1759.3~11.) 。七年戦争の財政危機打開のため,地租を含む緊縮政策を企てたが,特権身分の反対を受け失脚。影絵,輪郭の語源となった人物。ただし,語源には,政策反対の表示として装ったひだなしの簡素な衣服の呼称という説や節約のため豪華な肖像画を低廉な影絵にするよう提唱したゆえという説などがある。

シルエット
silhouette

本来は,黒い紙を切ってつくる側面影像。ここから影絵,外形,輪郭などの意となった。この表現法はすでに旧石器時代の壁画やギリシアの幾何学文様の壺絵にもみられるが,服飾では特に,服装全体の型や姿などの総体を示す語として用いられる。フランス,ルイ 15世時代の財務総監 É.シルエットの極端な緊縮政策に対してやせた影法師の漫画を描いて嘲笑的に風刺したことが始り。

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デジタル大辞泉プラス 「シルエット」の解説

シルエット

サックス奏者、ケニー・Gの1988年発表のスムーズ・ジャズ・アルバム。原題《Silhouette》。

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世界大百科事典(旧版)内のシルエットの言及

【切紙細工】より

… 切紙絵の代表的なものにシルエットの切紙があり,大道芸として即席に人物のシルエットを切りぬく芸人がみられるが,そのすぐれたものは影絵芝居やアニメーション映画にも応用され,日本では回り灯籠にも応用されている。シルエットsilhouetteという言葉は,18世紀のフランスの蔵相エティエンヌ・ド・シルエットの緊縮財政によって画家までも色彩をつかわず,黒白の影絵を描いたことに由来すると伝えられているが,日本では文政年間(1818‐30),人の似顔を紙に切りぬいて見世物にする芸人があったことを《嬉遊笑覧》は伝えている。19世紀からヨーロッパで行われた着せ替え人形も,厚紙を切りぬいた裸の人形に切紙細工の衣装を着せる遊戯で,衣装や人形は市販されたが,手製のものによっても遊ばれた。…

【切紙細工】より

…小学校の工作教育で行われる切紙模様はもっと自由に模様を切りぬき,つないでいくものが多い。 切紙絵の代表的なものにシルエットの切紙があり,大道芸として即席に人物のシルエットを切りぬく芸人がみられるが,そのすぐれたものは影絵芝居やアニメーション映画にも応用され,日本では回り灯籠にも応用されている。シルエットsilhouetteという言葉は,18世紀のフランスの蔵相エティエンヌ・ド・シルエットの緊縮財政によって画家までも色彩をつかわず,黒白の影絵を描いたことに由来すると伝えられているが,日本では文政年間(1818‐30),人の似顔を紙に切りぬいて見世物にする芸人があったことを《嬉遊笑覧》は伝えている。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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