ジェームズ(William James)(読み)じぇーむず(英語表記)William James

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ジェームズ(William James)
じぇーむず
William James
(1842―1910)

アメリカの哲学者、心理学者。宗教思想家ヘンリー・ジェームズHenry James(1811―1882)の長男としてニューヨーク市に生まれる。小説家ヘンリー・ジェームズの兄。ハーバード大学で最初に化学、ついで比較解剖学と生理学を学び、さらに医学を専攻する。1869年医学博士の学位をとり、1873年よりハーバード大学で解剖学と生理学、1875年より心理学を教え、1885年哲学教授となる。1907年同大学退職。3年後にニュー・ハンプシャーのチョコルアで死去

 最初の著作『心理学原理』(1890)は12年の歳月をかけて執筆されたものであり、従来の単に思弁的、内省的な心理学にとどまらず、実証的、観察的な事実を重視する科学的心理学を志向する画期的な名著とされ、現代心理学に多大の影響を与えるとともに、深い哲学的含蓄によって現代哲学者たち(たとえばベルクソン、J・デューイ、ウィットゲンシュタイン)に広範な刺激を与えた。論文集『信じる意志』(1897)は、知的領域で真偽を決めることのできない命題はそれを信じることによって初めて真となる場合があることを明らかにし、また決定論を批判して自由意志を認める立場を守る諸論文から成り立っている。

 1898年、カリフォルニア大学における哲学会での講演「哲学的概念と実際的結果」は、20年前にパースが唱えたプラグマティズムを独自の角度から紹介し、プラグマティズムの名を全世界に広めた。プラグマティズムに関する彼の基本的な立場は著書『プラグマティズム』(1907)と論文集『真理の意味』(1909)に詳しい。『多元的宇宙』(1909)では、宇宙はたった一つの原理によって支配されているのではなく、宇宙を統一的に記述しようとするどんな文章にも「そして」ということばが続くのであり、宇宙はいわば帝国ではなくて連邦共和国のように多元的なものであるという。

 死後出版された『根本的経験論』(1912)では、世界は物でも心でもなく、いわば両者の交点である「純粋経験」からなると主張し、ある時期のバートランド・ラッセルや西田幾多郎(にしだきたろう)の『善の研究』(1911)に影響を与えた諸論文が集められている。『哲学の諸問題』(1911)は、入門書の体裁をとりつつ自らの哲学の体系的叙述を試みたものであるが、未完の遺稿となった。

[魚津郁夫 2015年10月20日]

『福鎌達夫他訳『ウィリアム・ジェイムズ著作集』7巻(1960~1962・日本教文社)』『桝田啓三郎・加藤茂訳『根本的経験論』(1978・白水社)』『今田寛訳『心理学』上下(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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