ステレオタイプ(読み)すてれおたいぷ(英語表記)stereotype

翻訳|stereotype

精選版 日本国語大辞典 「ステレオタイプ」の意味・読み・例文・類語

ステレオ‐タイプ

〘名〙 (stereotype)
① =ステロばん(━版)①〔舶来語便覧(1912)〕
② ありふれたやり方。きまりきった型。特に、心理学で人間の行動・思考・性格などが型にはまって一様であるさま。ステロタイプ
※かのやうに(1912)〈森鴎外〉「ステレオチイプな笑顔の女芸人が」

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デジタル大辞泉 「ステレオタイプ」の意味・読み・例文・類語

ステレオタイプ(stereotype)

印刷で用いる鉛版。ステロタイプ。
行動や考え方が、固定的・画一的であり、新鮮味のないこと。紋切り型。ステロタイプ。「ステレオタイプ批評家
[類語]お定まりお決まり単調平板類型的・没個性的・一本調子千編一律モノトーンワンパターンマンネリ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ステレオタイプ」の意味・わかりやすい解説

ステレオタイプ
すてれおたいぷ
stereotype

W・リップマンが彼の代表的著書『世論』(1922)でこの用語を用いて以来、社会心理学のみならず、広く社会科学上の重要な概念となった。彼はこの概念について次のように説明している。「多くの場合、われわれは最初に見てから定義づけるのではなく、最初に定義づけてから見る。外界の、あの途方もなく、ざわついた混沌(こんとん)のなかで、われわれは文化がすでに定義づけたものを選び出し、文化が類型化したままに、その選択されたものを知覚しがちである」。このように、ステレオタイプとは、特定の文化によってあらかじめ類型化され、社会的に共有された固定的な観念ないしイメージのことである。通例、紋切り型態度と訳される。その特徴として、
(1)過度に単純化されていること、
(2)不確かな情報や客観的根拠の薄弱な知識に基づき誇張され、しばしばゆがめられた粗略な一般化ないしカテゴリー化であること、
(3)好悪、善悪、正邪、優劣などといった強力な感情を伴っていること、
(4)人種差別racism)や性差別(sexism)といった偏見に転化しやすいこと、
(5)偏見や誤認・誤解を生むが、同時に、社会的に共有される感情・認知・思考・行動様式を型にはめることで社会の統合と安定にも寄与していること、
(6)新たな証拠や経験に出会っても、容易に変容しにくいこと、
などが通例あげられている。

 人間がなぜステレオタイプに固執するかについて、リップマンは二つの理由を述べている。一つは、人間の環境適応におけるステレオタイプの認知的経済性ということである。ステレオタイプに頼らず、日常生活のすべての事物を新たに、詳細に知覚しようとすれば、たいへんな労力と時間が必要であって、次々に生起するできごとを考えると、実際上不可能である。いま一つは、ステレオタイプの意味体系はアイデンティティの核心であって、自我防衛のメカニズムであるからにほかならない。それは正確な世界像ではないけれども、「世界に関する秩序だった、多かれ少なかれ首尾一貫した映像」であり、人々にとって「よく知られているもの、正常なるもの、頼りになるものの魅力」をもち、「ひとたびすっぽりはまり込むと、履きなれた靴のように、気持よくぴったりとあう」のだ。その結果、ステレオタイプを揺り動かすものはなんであれ、われわれの存在基盤そのものへの攻撃となり、われわれの自尊心を傷つけることになる。

 ステレオタイプが価値規範や道徳を内包する信念体系である限り、ステレオタイプの意味体系は社会統制の有効な手段として機能する。人々が支配的なステレオタイプを受容せず、拒否するならば、反道徳的、反社会的というスティグマ(stigma、汚名恥辱)を彼らに刻印し、非難と攻撃を浴びせ、制裁を加えても、正当化できるからであり、この正統性のゆえに、人々は一般にステレオタイプへの従順と同調を示すのである。現代社会では、マスコミがステレオタイプの培養基ならびに増幅器として、きわめて重要な役割を果たしている。

[岡田直之]

『G・W・オルポート著、原谷達夫・野村昭訳『偏見の心理』(1968・培風館)』『清水幾太郎著『社会心理学』改版(1972・岩波書店)』『藤竹暁著『事件の社会学――ニュースはつくられる』(中公新書)』『W・リップマン著、掛川トミ子訳『世論』上下(岩波文庫)』

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知恵蔵 「ステレオタイプ」の解説

ステレオタイプ

様々な情報が氾濫する今日、人はメディアを通してしか事物を知ることはできない。そして、普通の市民は事物について多様な情報を吟味し、正しく事物を知るだけの余裕を持たない。メディアが伝えるイメージが固定化し、人は思考を省略してそのようなイメージに基づいて認識、判断を行うようになる。そのような固定化されたイメージをステレオタイプと呼ぶ。また、ステレオタイプを共有することは、人が社会の多数派に同調する際に必要となる。例えば、ナチス時代のドイツで、ユダヤ人にも善人はいると発言することの危険さを思い浮かべれば、同調主義がステレオタイプを通して蔓延(まんえん)することが理解できるだろう。これを権力者の側から見れば、ステレオタイプを作り出すことは世論を操作し、自らに対する支持を拡大する上で有効な手段ということになる。9.11以降の「イスラム」、拉致事件発覚後の「北朝鮮」など、その種のステレオタイプの例は枚挙にいとまがない。したがって、民主政治を健全に保つためには、ステレオタイプを打破する言説の余地を常に残しておく必要がある。メディアの多様性や言論の自由が大きな政治争点となるゆえんである。

(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ステレオタイプ」の意味・わかりやすい解説

ステレオタイプ
stereotype

本来は同じ鋳型から打出された多数のプレート (ステロ版) の意味であるが,社会学や政治学の用語としては,一定の社会的現象について,ある集団内で共通に受入れられている単純化された固定的な概念やイメージを表わすものとして用いられる。通常それは好悪とか善悪の感情を伴った「できあい」の概念,あるいは「紋切り型」の態度というふうに訳される。ステレオタイプは,複雑な事象を簡単に説明するには役立つが,多くの場合,極度の単純化や歪曲化の危険を伴い,偏見や差別に連なることになる。特に支配者が社会統制の手段としてそれを意識的に操作する場合には,ナチスのユダヤ人に対する迫害運動,アメリカの「赤狩り」のような,大きな社会的弊害を引起す。

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百科事典マイペディア 「ステレオタイプ」の意味・わかりやすい解説

ステレオタイプ

元来鉛版の意味だが,転じて機械的に反復される事象を比喩(ひゆ)的にいうようになった。日本語の〈紋切型〉に相当する。(1)精神医学ではstereotypyを〈常同症〉と訳し,無意味な動作や言葉の機械的・規則的反復症状をいう。(2)社会心理学では一定の社会的対象に関して,ある集団の中で共通に受け入れられている単純化された固定的な概念やイメージを意味する。これは,未知の状況に対する迅速な適応を可能にするが,強い感情的要素を伴い,集団的な偏見を広める弊害がある。
→関連項目エイジズム

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世界大百科事典(旧版)内のステレオタイプの言及

【鉛版】より

…活字組版(活字と線画凸版あるいは写真版を組み込んだもの)は,大量に印刷すると磨滅するから同じ版を多数作っておくと便利である。英語ではステレオタイプstereotypeといい,同型の版の意味で,日本でも俗にステロまたはステロ版ともいって,ごく少部数の活版印刷物を除いて,この複製版を利用することが多い。原版(活字組版)に紙型用紙を圧して作った紙型に,320℃くらいに加熱し溶融した鉛合金を流し込んで冷却固化したものを,印刷機にかけるのに便利な形に仕上げる。…

※「ステレオタイプ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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