スナメリ(英語表記)Neophocaena phocaenoides; finless porpoise

改訂新版 世界大百科事典 「スナメリ」の意味・わかりやすい解説

スナメリ (砂滑)
finless porpoise
Neophocaena phocaenoides

ハクジラ亜目ネズミイルカ科の哺乳類。頭が丸く背びれがない,沿岸ないし河川性の全長1.9m以下のイルカ。水深50m以浅に生息する。ナメ,スザメ,ゼゴンドウなどとも呼ばれる。新生児は全身褐色であるが,成体では淡灰色となる。背びれを欠き,頭から尾部に至る背面に幅1~数cm,高さ1cm程度の隆起がある。前頭部は丸く膨らみくちばしはない。歯は上下左右に15~20本ある。歯冠は扁平。ペルシア湾からインド洋,シンガポール,ボルネオ,中国を経て日本まで分布し,北限は能登半島と仙台。かつてアフリカ東岸にも分布すると信じられたが,今では否定されている。体長や背部の隆起の大きさ,形態に地理的変異が多い。日本近海の個体は最も大きい部類に属する。大村湾有明海瀬戸内海,伊勢湾,三河湾,東京湾などの個体は他と交流のない独立した個体群をなす。繁殖は秋(西九州)あるいは初夏(瀬戸内海以東)におもに内湾で行い,約11ヵ月の妊娠の後,1子を生む。体長70~80cmで生まれた子は母親に伴われて湾外に出る。数ヵ月で離乳し,年齢4~7歳,1.5mで成熟する。沿岸性の小魚イカ,カニなどを食し,1~3頭の小群で生活するが,ときには多くの群れが集まる。広島県阿波島の南はこの種の群生地で,スナメリに追われたイカナゴコウナゴ)を目がけて海底からタイが浮上し,釣りやすくなると信じられ,島の南端1.5kmの群生地は天然記念物に指定されている。日本各地の個体群は海洋汚染や沿岸環境の破壊,漁業による混獲などの脅威にさらされている。長江の個体群も似た状況にある。
クジラ
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スナメリ」の意味・わかりやすい解説

スナメリ
Neophocaena phocaenoides; finless porpoise

クジラ目ハクジラ亜目ネズミイルカ科スナメリ属。体長は約 1.9mに達する。雄は雌よりわずかに大きい。出生体長は 70~80cmになる。体色は全身同色で,個体により藍ねずみ色から紺灰色までの変異がある。頭部は小さく,嘴 (くちばし) や口唇状の突出がない。吻端から噴気孔にかけて丸くふくらみ,体の中央付近が最も太い。胸鰭 (むなびれ) は大きく,体長の6分の1程度で三角形状を呈し,先端がとがる。背鰭はないが,胸部から尾鰭つけ根にかけて背部正中線上に幅3~4cm程度の隆起があり,この上に丸い鱗片状の突起物が無数にある。上下顎骨にへら状の歯が左右 13~22対ある。イカナゴ類,イワシ類,底生性小型甲殻類のほか沿岸性のイカ類やタコ類を食べる。ペルシア湾からインド洋沿岸,インドネシア,ジャワ,フィリピン,中国,朝鮮半島,日本沿岸域に分布し,仙台湾を北限とする。内湾性が強く,チャン (長) 江 (揚子江) ではトンティン (洞庭) 湖付近まで出現する。イカナゴを1ヵ所に集め,漁を容易にすると古くから信じられてきた。生息域の開発および環境汚染により,生息数の減少が懸念されている。広島県竹原市阿波島周辺の海面が「スナメリクジラ廻遊海面」として天然記念物に指定された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スナメリ」の意味・わかりやすい解説

スナメリ
すなめり / 砂滑
finless porpoise
[学] Neophocaena phocaenoides

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目ネズミイルカ科のハクジラ。スナメリクジラ、ナメノウオ、スザメなどの名もある。牡鹿(おしか)半島と能登(のと)半島以南から東南アジアおよびインド洋北部、アフリカ東海岸に分布し、体長1.9メートル以下で、日本近海に分布する鯨類中では最小クラスである。全身が銀灰色で、死後は黒くなる。頭部が丸く、くちばしや背びれはなく、背面中央に鱗片(りんぺん)状組織からなる低い隆起帯をもつ。歯は、先の広いしゃもじ形をしている。沿岸性で、瀬戸内海や伊勢(いせ)湾に多く、魚群を取り囲む習性があって漁業に有益なことから、広島県竹原市阿波(あわ)島の群遊海面は国の天然記念物として保護されている。繁殖期は春。生まれた子は体長80センチメートル、体重8キログラム前後で、生後3年で1.4メートルになる。小魚やイカ類を捕食する。

[片岡照男]


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百科事典マイペディア 「スナメリ」の意味・わかりやすい解説

スナメリ

ナミノウオとも。クジラ目ネズミイルカ科のハクジラ。体長1〜1.5m。頭が丸く,背びれ,くちばしのない点が特徴。体色は灰黒色のものが多い。アフリカ東岸〜インド洋,中国,日本に分布。日本では宮城県以南に多く,瀬戸内海の広島県竹原市阿波島付近の群生海面は天然記念物。沿岸性でしばしば川をさかのぼる。1〜数頭ですみ,小魚,イカなどを食べる。1腹1子。
→関連項目イルカ(海豚)

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