スミス(George Pearson Smith)(読み)すみす(英語表記)George Pearson Smith

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

スミス(George Pearson Smith)
すみす
George Pearson Smith
(1941― )

アメリカの生化学者。コネティカット州ノーウォーク生まれ。1963年ペンシルベニア州のハバフォード大学卒業。高校教師などを経て、1970年ハーバード大学で細菌学と免疫学の博士号を取得。その後、博士研究員としてウィスコンシン大学で、オリバー・スミシーズ(2007年ノーベル医学生理学賞受賞)の指導を受け、1975年ミズーリー大学助教授、1990年教授、2000年に特別栄誉教授に任命された。

 1980年代、細菌に感染するウイルスバクテリオファージを使いDNAクローニングの研究を始めた。バクテリオファージは、カプセル状の表面タンパク質の中に少数遺伝子を含む単純な構造のウイルスで、細菌に感染すると、自らの遺伝子を細菌のDNAに潜り込ませ、ウイルスの表面に増殖に必要なタンパク質の断片(材料)をつくりだすことによって大量に増殖する。スミスは、1983~1984年、サバティカル休暇で、デューク大学に滞在した時、バクテリオファージの表面タンパク質をつくる遺伝子「Phage gene Ⅲ」にさまざまなDNAの破片を注入し、既知のタンパク質をつくろうとしていた。ねらったタンパク質が、ファージの表面につくられていることを確認。それを生体がつくりだす抗体と結合させて、釣りあげられることを実証し、1985年に発表した。この手法は「ファージディスプレー法」とよばれ、精度よく、大量の遺伝子、タンパク質を取り出すことを可能にし、広く普及した。この手法を活用し、画期的な自己免疫疾患治療用ヒト抗体医薬品「アダリムマブ」(商品名ヒュミラ)を開発したのが、イギリス医学研究会議(MRC)分子生物学研究所のグレゴリー・ウィンターである。この薬はリウマチ性関節炎ほか炎症系疾患の治療に適用拡大されている。

 2007年プロメガ・バイオテクノロジー研究賞を受賞。2018年には「ファージディスプレーによるタンパク質や抗体の開発」の業績で、グレゴリ・ウィンターとノーベル化学賞を共同受賞した。「指向性進化による酵素の合成」に貢献したアメリカのカリフォルニア工科大学教授フランシス・アーノルドとの同時受賞であった。

玉村 治 2019年3月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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