日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
スミス(Vernon L. Smith)
すみす
Vernon Lomax Smith
(1927― )
「実験経済学の父」とよばれるアメリカの実験経済学者。カンザス州ウィチタ生まれ。1949年にカリフォルニア工科大学で電気工学の学位をとり、1952年にカンザス大学で修士号、1955年にハーバード大学で博士号を取得。パーデュー大学、ブラウン大学、マサチューセッツ大学などを経て、1975年にアリゾナ大学教授、2001年からジョージ・メイソン大学教授を務める。経済学は実験と無縁の学問であるという通念を打破し、心理学とは異なる実験経済学独自の方法論を樹立する。2002年にD・カーネマンとともに、ノーベル経済学賞を受賞した。受賞理由は「市場メカニズムの研究において、実証実験を通じて解明する実験経済学を確立した」ことである。
教科書通りに需要曲線と供給曲線の交点付近での取引が実験においても成立することを論証するために、買い手も売り手も価格を提示するダブルオークションの手法を開発する。また被験者に一定の謝金を支払い、実験者にとって適切な選好統制の手段としての誘導価値理論を定式化し、実験できないとされてきた経済学に実験研究の道を開いた。これは自然科学の風洞実験などと同様、社会制度の性能を事前に確認することを意味し、規制緩和した電力市場の機能や、地球温暖化にかかわる二酸化炭素の排出権取引の仕組みなどに応用されている。
[金子邦彦]