スローフード(読み)すろーふーど(英語表記)slow food

翻訳|slow food

精選版 日本国語大辞典 「スローフード」の意味・読み・例文・類語

スロー‐フード

〘名〙 (slow food) ゆっくり食事をすることで、食文化を守り、食の楽しみを知ること。多忙な現代社会で、食事くらいはゆっくりとろうという指針で、北イタリアから始まった運動。⇔ファーストフード

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デジタル大辞泉 「スローフード」の意味・読み・例文・類語

スロー‐フード(slow food)

食生活や食文化を根本から考えていこうという活動。伝統的な食材や料理方法を守り、質のよい食品やそれを提供する小生産者を守り、消費者に味の教育を進めるというもの。1986年ころにイタリアで生まれた運動。
[補説]言葉はファーストフードと対立する概念であるが、食を根本から考え直すという広い意味合いがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スローフード」の意味・わかりやすい解説

スローフード
すろーふーど
slow food

スローフードは、標準化、画一化された安価なファストフードfast foodなどの食べ物とは異なることを意味することばである。単にファストフードの対極のことばとして紹介されていることもあるが、大きくは「食」と「食文化」についての根源的なところを考える活動を意味する。

 スローフードとは、(1)消えてゆくおそれのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、酒類を守る、(2)質のよい素材を提供する小生産者を守る、(3)子どもたちを含め、消費者に味の教育を進める、というテーマを掲げ、イタリアのブラBraという地方からスタートしたNPO(民間非営利組織)による活動である。その設立は、1989年にさかのぼる。その年、スローフードインターナショナルは、パリのオペラコミークで世界の15か国から支持された『スローフード宣言』を発表した。2002年時点で、その活動は世界の45か国に広まり、「コンビビア」とよばれる560の集まりが組織され、6万5000以上の人たちが参加している。たとえば、イタリアのスローフードでは、隔年一度、世界各地の食材やワイン、料理、文化的情報を集め、味の発見と確認をしようという食の祭典「Salone del Gusto」を開催している。

 日本では、活動ということばに置き換えなくとも、古くから自然で低カロリーな米食や郷土食、そして地方の特色ある食材や日本酒(清酒)、焼酎(しょうちゅう)があり、日常のなかでスローフードが実践されてきた。しかし一方では、流通や販売の方法により、北海道から沖縄まで同じ食材で同じ味の食事をするといった画一化が進んでいる。そこで、日本のスローフード活動は、伝統的な食材や各地の郷土料理を体験したり、日本酒を酒米から研究し調査するといったことから、小規模生産のよい素材を守っていくことなどの活動を進めている。また、子どもたちや消費者に対して味覚の教育を行う「食育」という活動も進めている。現在は「農業漁業そして醸造といった食の生産の場」から「人の食事」に至る道程がみえなくなり、さらに自分自身の生活スピードの把握も困難になってきている。そのような状況のもとで、スローフードの意味すること、「一度立ち止まって、しっかりと『生活』と『食』を見直すこと」が、未来につながる道をつくると考えられている。

[國本桂史]

『日本食生活協会編・刊『食生活指針ガイド 2002』(2002)』『中島章夫監、こどもくらぶ編・著『食べもので国際交流――地域でできるこれからの国際交流3』(2002・岩崎書店)』

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百科事典マイペディア 「スローフード」の意味・わかりやすい解説

スローフード

食べることや食べ物を作ること,楽しみながら食べようという考え方。あるいは,こうしたライフスタイルを意味する。〈味の画一化〉をもたらすファーストフードを批判する意味で〈スロー〉という言葉が使われたが,ファーストフードを単純に否定するのではなく,食文化をいま一度見直そうという意識が底流には流れている。イタリア北部の町ブラ(Bra)で1980年代に始まった運動がきっかけ。ローマにファーストフードのチェーン店が誕生した際にイタリアの伝統的な味や家庭の味が忘れ去られてしまうのではないかと運動が起こり,これが1986年の特産品の保護と伝統を掲げた組織〈アルチゴーラ〉の設立へとつながり,国際的なスローフード協会(本部イタリア)の誕生をもたらした。〈伝統的な食材や料理,質のよい食品,ワイン(酒)を守る〉〈子供たちを含め消費者に味の教育をすすめる〉〈質のよい素材を提供する小生産者を守る〉の3つが活動指針として掲げられている。日本では2001年10月にニッポン東京スローフード協会が設立されるなど各地に支部がつくられているほか,2004年6月には機関誌《slow》の日本語版《スローフード》(季刊)が創刊された。さらに,〈スロー〉という言葉を生活全般に適用した〈スローライフ〉,アメリカで2000年ごろから導入されはじめた市場戦略用語〈ロハス(LOHAS。Lifestyle of Health and Sustainability)〉も,日本では健康や環境問題に関心をもつ人を中心に流行した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スローフード」の意味・わかりやすい解説

スローフード
slow food

イタリアで提唱された,環境,健康を害さない多様性に富んだ地域の食物,またそれらを見直そうという運動。1986年,イタリア北西部のピエモンテ州ブラで,ファーストフード fast foodによる食の画一化に対する危機感を背景に,食材選び,調理法,食べ方について本来の自然な姿に立ち戻ろうという運動が起こった。1989年には非営利組織 NPOのスローフード協会 Slow Food Internationalが設立,初の国際大会がパリで開かれ,15ヵ国の代表によってスローフード宣言が採択され,国際運動へと発展した。絶滅に瀕した動植物や,伝統的な食文化,農法など,食を取り巻く生態系の多様性を守り,味覚教育(食育)を推進し,消費者を共生産者ととらえ有機農業や小規模経営を行なう生産者を積極的に支援することで,環境に配慮しながら食の喜びを取り戻すことを目的とする(→エコロジー)。日本では 2004年スローフードジャパンが発足,2016年に日本スローフード協会(通称スローフード日本)が設立された。

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知恵蔵 「スローフード」の解説

スローフード

ファストフード(fast food)の健康や情緒に及ぼすマイナス影響、ひいては食文化の荒廃への警鐘として提唱された言葉。食材や調理法、食べ方について、ファスト(速い)は人工的で不自然とし、本来的で自然なスロー(ゆっくり)に立ち戻ろうという運動が、1980年代後半にイタリア・ピエモンテ州で始まり、環境問題の深刻化やBSEの発生など、食品にまつわる事件とも相まって、世界規模のNPO団体「スローフード協会」となった。各地で安全な食を求める消費者を結び、有機栽培や小規模経営の生産者を支持し、その環境をも守ろうとする食のエコロジー活動でもある。2000年にはスローフード・アワードが創設され、02年度の受賞者に佐賀県で古代米(赤米/黒米)を有機栽培する人が選ばれた。

(中島富美子 フード・ジャーナリスト / 2007年)

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