セラチア,エンテロバクター感染症

内科学 第10版 の解説

セラチア,エンテロバクター感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(5)セラチア,エンテロバクター感染症
疾患概念・病態生理・疫学
 セラチア(Serratia)はヒト,動物の腸内および土壌,水中に広く分布する好気性のGram陰性桿菌である.セラチア属で最も頻繁に分離されるのはSerratia marcescensである.本菌の特徴としてプロジギオシン(prodigiosin)という赤色色素を産生することが知られているが,近年の臨床分離株では色素産生菌は減少している.エンテロバクター(Enterobacter)はヒト,動物の腸内および土壌に広く分布するする通性嫌気性のGram陰性桿菌である.エンテロバクター属ではEnterobacter cloacae, E. aerogenes, E. sakazakiiが主要な菌である.いずれの菌も院内環境中に分布し,エンテロバクターは入院患者の腸内に保菌され,セラチアはしばしば気道や尿路から分離される.とりわけ,抗菌薬投与後やICU入室患者において,医療従事者の手指を介してしばしば院内感染を起こす.また,セラチアは消毒薬に耐性を示し,ときにベンザルコニウムクロライドなどの消毒薬中から検出される.わが国においても1999〜2001年に,セラチアによる院内感染事例が発生している.その多くは点滴や血管内留置カテーテルが感染経路となっている.
鑑別診断
 ブドウ糖非発酵Gram陰性桿菌による尿路感染症,胆道感染症,肺炎敗血症では鑑別が必要になる.
臨床症状,経過,予後
 いずれも入院患者において最も頻繁に尿路感染症(膀胱炎腎盂腎炎)を惹起する.しかしながら,しばしば肺炎,敗血症,感染性関節炎を発症する.また,薬物乱用者ではセラチアによる心内膜炎が知られている.高齢者や全身衰弱を伴う宿主における肺炎,敗血症では予後が悪い.
検査所見
 菌の分離同定により細菌学的に診断される.尿検体などではGram染色所見も参考になる.臨床症状や全身の炎症反応から保菌か感染かを判断することが重要である.
治療
 セラチアはextended-spectrum β-lactamase (ESBL)やクラスB型β-ラクタマーゼを産生する.ESBL産生菌に対してはフロモキセフなどのオキサセフェム系,カルバペネム系やβ-ラクタマーゼ阻害薬が有効である.クラスB型β-ラクタマーゼ産生菌はセフェム系薬,カルバペネム系薬にも耐性を示すため,モノバクタム系薬,アミノグリコシド系薬の選択を考慮する.エンテロバクターも誘導型のβ-ラクタマーゼを産生するため,薬剤感受性に応じてカルバペネム系や第4世代セフェム系薬,ニューキノロン系薬を選択する.[大石和徳]
■文献
Donnenberg MS: Enterobacteriacae. Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennet JE, et al eds), pp2815-2833, Churchill Livingstone,2010.
庄 武彦,村谷哲郎,編:セラチア.病原菌の今日的意味(松本慶蔵編), pp376-390, 医薬ジャーナル社,東京,
2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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