ツチハンミョウ(読み)つちはんみょう(英語表記)blister beetle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツチハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ツチハンミョウ
つちはんみょう / 地胆
blister beetle

昆虫綱甲虫目ツチハンミョウ科Meloidaeに属する昆虫の総称。とくにそのなかのツチハンミョウ属Meloeに含まれる一群をさすことが多い。この科は世界に3000種が産し、そのうち日本産は20種前後である。体長3~30ミリメートル、10~20ミリメートルぐらいの中形種が多い。色は黒色と黄色ないし赤褐色の2色のものが多いが、青色や緑色に光る種類もある。頭は大きく首が細くくびれ、前胸の側縁はなく、脚(あし)の跗節(ふせつ)は5節で後脚だけ4節、つめは根元から2片に裂けており1片は細い。上ばねは長くて両側がほぼ平行のことが多いが、ツチハンミョウ属では上ばねが左右に開いていて大きな腹部が露出しており、色は全体が黒藍(こくらん)色のことが多い。この属は地表に多く、春と秋にみられるが、ほかの類のものは草上や樹木の葉や花にみられる。産卵地中にされ、幼虫は過変態をすることが知られ、活動的な三爪虫(さんそうちゅう)とよばれるものからウジムシ形などの時期を経て、擬蛹(ぎよう)から蛹(さなぎ)になる。ツチハンミョウ属やキイロゲンセイZonitisなどの三爪虫は花上でハナバチに取りついて巣に運ばれ、卵や蜜(みつ)、花粉を食べて育つが、マメハンミョウEpicautaの三爪虫はバッタ類の卵塊を食べる。ヒラズゲンセイ属Cissitesの幼虫はクマバチに寄生する。

 この科の成虫人体水疱(すいほう)をつくるカンタリジンを含んでおり、ヨーロッパではおもにセイヨウミドリゲンセイSpanish fly/Lytta vesicatoriaやオビゲンセイ属Mylabris、日本ではマメハンミョウから抽出し、発泡剤として薬用に用いられる。

[中根猛彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「ツチハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ツチハンミョウ (土斑猫)
oil beetle

甲虫目ツチハンミョウ科ツチハンミョウ属Meloeの昆虫の総称。青藍色,または黒藍色の体は腹部が著しく肥満し,とくに雌では異常に大きい。上翅は短く,後翅を欠き,飛ぶことができない。体長8~30mm。春出現してタンポポをはじめいろいろな植物の葉を食べる。とらえると擬死をして,脚の関節からカンタリジンを含んだ黄色の液を分泌する。雌は地面に穴を掘り,体をその中に入れて1000個,もしくはそれ以上もの卵を産む。孵化(ふか)した幼虫は3本のつめをもつことから三爪(さんそう)幼虫と呼ばれる。花によじ登って飛来したハナバチにしがみつき,巣に運ばれる。ハナバチの卵を食べ終わるとコガネムシ幼虫に似た幼虫となる。みつを食べて2回脱皮し,擬蛹(ぎよう)と呼ばれる眠(みん)幼虫となり,さらに脱皮してさなぎとなる。このような複雑な変態を過変態という。オオツチハンミョウ,ヒメツチハンミョウ,マルクビツチハンミョウなど,日本からは7種が知られる。ツチハンミョウ科Meloidaeの英名はblister beetle。世界から約2000種,日本には約20種を産する。ツチハンミョウ類のほか,マメハンミョウ類,ゲンセイ類,キイロゲンセイ類などが含まれる。いずれもイナゴ,バッタ,ハナバチ,クマバチ,ハキリバチなどに寄生する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツチハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ツチハンミョウ
Meloidae; blister beetle

鞘翅目ツチハンミョウ科の昆虫の総称。中型の甲虫で体は軟らかく,細長いものと短太のものとがある。頭部後端はくびれて頸状になる。前胸は側縁を欠き,後端部は上翅基部より幅が狭い。上翅は普通軟らかく皮革状で,正常な縫合線で左右が接するもの (マメハンミョウ,ゲンセイ類) のほかに,上翅が短くて縫合線がなく,基部で左右重なり合って後方で大きく開くもの (ツチハンミョウ類) があり,狭義のツチハンミョウは後者をさす。幼虫は過変態を行うのでよく知られる。第1齢幼虫は 跗節に3爪を有するため三爪幼虫と呼ばれ,きわめて活発に宿主を求めるが,バッタ類の卵塊に到達してこれを食べるものと,ハチ類に付着してその巣に到達し,たくわえられている食物やその幼虫を食べるものとがある。その後無脚の不活発な蛆形幼虫に変態をとげ,前蛹を経て蛹になる。成虫は体内に有毒物質カンタリジンを含み,口や肢の関節から分泌する黄色の液体にこれを含むので,人体の皮膚などにつくと水腫を生じさせる。かつてはこの成分がゲンセイまたはハンミョウの名で神経痛やリウマチなどの疼痛緩和剤として薬用にされた。

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百科事典マイペディア 「ツチハンミョウ」の意味・わかりやすい解説

ツチハンミョウ

ツチハンミョウ科の中の一群の甲虫の総称。体,前翅ともに軟弱。前翅は腹背で重なり合い,短く,腹部が露出する。青藍〜紫藍色のものが多い。後翅は退化して飛べない。地上をはい回り草を食べる。捕らえられると肢の関節部からカンタリジンを含んだ黄色の悪臭ある液を分泌し,人体の皮膚に発泡させる。過変態をし,幼虫はハナバチ類の巣に寄生する。成虫は晩秋または越冬して翌春に現れる。オオツチハンミョウ,ヒメツチハンミョウなど。

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世界大百科事典(旧版)内のツチハンミョウの言及

【甲虫】より

…日本から本種の雄の成虫は発見されていない。 甲虫の産卵数は種類によって異なるが,ハナバチの巣に寄生するツチハンミョウは約5000個を土中に産みつける。雌の腹部は異常に発達した1対の卵巣で著しく肥満する。…

【ハンミョウ(斑猫)】より

…【林 長閑】
[ハンミョウと人間]
 漢方の斑猫(はんみよう)(斑蝥(はんぼう))はほんとうのハンミョウではない。すなわち身体にカンタリジンを含み,発疱剤,利尿剤,そして媚薬として用いられる斑猫は,ツチハンミョウ科に属し,カンタリジンを含まないハンミョウは,ハンミョウ科に属する昆虫である。カンタリジンはきわめて強い毒物質で,約30mgが致死量であるという。…

※「ツチハンミョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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