ツリフネソウ(読み)つりふねそう

改訂新版 世界大百科事典 「ツリフネソウ」の意味・わかりやすい解説

ツリフネソウ (釣舟草)
Impatiens textori Miq.

山間の湿地に生えるツリフネソウ科一年草。花は舟形花柄の先にぶら下がって咲き,熟した果実はふれると急にはじけて種子を飛ばす。属名のImpatiensは〈がまんできない〉という意味。日本全国のほか朝鮮や中国東北部にも分布する。茎は高さ50~80cm,よく分枝し,節はふくれる。葉は互生し,葉柄は長さ1~4.5cm,葉身は卵形で長さ6~14cm,円鋸歯がある。花序は総状,上部の葉腋ようえき)から出,太い腺毛が目だつ。花は左右相称,紅紫色,長さ3.5~4cm。萼は小型の側萼片2枚と袋状の唇弁,花冠は卵形の旗弁と舌状にのびる2枚の翼弁からなり,ともに内側に濃紫色の斑点がある。おしべは5本,葯は合生して柱頭をおおい,めしべは1本,5心皮性,子房は上位,5室,成熟すると5片に割れる。

 ツリフネソウに似るが,花序が葉よりつき出さず,花は葉下に隠れるハガクレツリフネI.hypophylla Makinoは本州中部以西に,また草丈がやや高く,花は黄色のキツリフネI.noli-tangere L.(英名touch-me-not)は北半球温帯に広く分布し,日本各地にある。

 ツリフネソウ属Impatiens(英名touch-me-not,balsam,jewelweed)はアジアアフリカ熱帯を中心に500種ほどあり,種子の形,実生形態,子房の構造,染色体数など,きわめて多彩な変化がみられる。日本には3種が自生するにすぎないが,ホウセンカアフリカホウセンカインパチエンス)などの品種改良の進んだ園芸植物も栽培される。

 ツリフネソウ科Balsaminaceaeは3属からなるが,2属は1種のみからなる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツリフネソウ」の意味・わかりやすい解説

ツリフネソウ
つりふねそう / 釣船草
[学] Impatiens textorii Miq.

ツリフネソウ科(APG分類:ツリフネソウ科)の一年草。茎は多汁質で軟弱、毛はなく高さ約80センチメートル、よく分枝し、柄とともに紅色を帯び、節が膨らむ。葉は有柄で互生し、菱状(りょうじょう)卵形または狭菱形で長さ5~15センチメートル。先端はとがり、基部はくさび形、縁(へり)に細かい鋸歯(きょし)があり、側脈が多い。7~9月、茎の上部の葉腋(ようえき)から腺毛(せんもう)のある紅褐色の花柄を出し、紅色で紫斑(しはん)のある径3センチメートルの花を開く。花弁は5枚、両側のものは2裂する。萼片(がくへん)は3枚、下方の1枚は大形で距(きょ)があり、花弁と同じ色になる。距の後端はぜんまい状に内に巻く。蒴果(さくか)は紡錘状で長さ2センチメートル、先端はとがり、熟すと5片にはじけて3、4粒の種子を飛ばす。山野の湿気の多い所に群生し、北海道から九州、および朝鮮半島、中国東北部、ロシア南部に分布する。名は、柄から垂れ下がる花の形が船をつり下げたようにみえることからついた。

[小林純子 2021年3月22日]


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百科事典マイペディア 「ツリフネソウ」の意味・わかりやすい解説

ツリフネソウ

北海道〜九州,東アジアの低山地の谷間の湿地にはえるツリフネソウ科の一年草。全体に多汁で柔らかい。茎は太く,高さ40〜80cm,よく分枝し,節に赤みがある。葉は狭い菱(ひし)形,縁には鋸歯(きょし)がある。夏〜秋,葉腋から花柄を出し,短い小柄の先に横向きに下垂した花を数個つける。花は紫紅色で紫色の斑点があり,長さ約3cm,後方には内に巻いた距がある。近縁種に花が淡黄色のキツリフネがある。

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