デニ・ムクウェゲ(読み)でに・むくうぇげ(英語表記)Denis Mukwege

知恵蔵 「デニ・ムクウェゲ」の解説

デニ・ムクウェゲ

コンゴ民主共和国(旧ザイール、以下コンゴと表記)の産婦人科医師。1955年3月1日生まれ。コンゴ東部で武装勢力兵士による女性への性暴力が行われてきたことから、南キブ州のブカブに「パンジ病院」を設立し、被害女性の治療と精神的なケアに当たってきた。2008年の国連人権賞以降、人権や平和に関連した様々な賞を受け、18年にノーベル平和賞を受賞。性暴力被害撲滅を訴える講演など社会活動にも尽力する。ドキュメンタリー映画「女を修理する男」(ティエリー・ミシェル監督、2015年制作)にこれまでの活動が描かれている。
コンゴがベルギー領だった頃に宣教師の家で生まれ、病の子に寄り添う父の姿を見て医師を志す。ブルンジ共和国の大学で医学を学んでから地域の病院に勤務した後、フランスのアンジェ大学で産婦人科学を専門に学んだ。コンゴに帰国した後で内戦が始まり、自らの患者数十人が虐殺されたりしたため、草原テントを張って治療を続けた。1990年代末にはブカブにパンジ病院を設立。ムクウェゲ医師が治療した性暴力被害女性の数は数万人ともいわれている。
紛争地における性暴力の実情は暴力や強制的な性行為にとどまらず、妊娠・出産ができなくなるほど生殖器が損傷したり、夫や子どもの前で性暴力を受けることで家族や親類・コミュニティーとの関係を絶たざるを得ないほど追い込まれたりするケースがある。また、エイズ(HIV)感染の被害もある。ムクウェゲ医師はこれらの実情を国際社会で訴えてきた。2012年、国連でコンゴにおける大規模な性暴力被害について報告した後、武装集団に襲われて欧州に逃れたが、患者からの帰国要請と支援により翌年、パンジ病院に戻った。
13年にスウェーデンの「ライト・ライブリフッド賞」、「ヒラリー・クリントン賞」、14年に「サハロフ賞」、16年に「ソウル平和賞」など、人権尊重や平和を目指す活動をたたえる各賞を受賞し、15年にはハーバード大学から医学名誉博士号も授与されている。ノーベル平和賞の授賞式では、紛争地における性暴力の実態を語り、コンゴで採掘されるゴールドやコルタン、コバルトなどの天然資源が、戦争や過激な暴力、絶望的な貧困の原因であることを訴え、「コンゴ民主共和国での暴力は、もうたくさんだ。今こそ、平和を」と述べて講演を締めくくった。

(若林朋子 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵mini 「デニ・ムクウェゲ」の解説

デニ・ムクウェゲ

産婦人科医。1955年3月1日、コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部南キブ州ブカブ生まれ。隣国のブルンジ共和国で医学を学んだ後、病院勤務やフランス留学を経て、99年、内戦下のブカブにパンジ病院を設立。武装勢力から性暴力を受けた数万人に及ぶ女性や子どもの治療や支援にあたり、戦闘行為の一貫として行われる性暴力を厳しく取り締まるよう、国際社会に訴える活動にも取組んでいる。これらの人権活動により、2008年に国連人権賞、14年に欧州連合(EU)欧州議会のサハロフ賞、18年にノーベル平和賞を受賞した。

(2018-10-10)

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