デュマ(子)(読み)でゅま(英語表記)Alexandre Dumas (fils)

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュマ(子)」の意味・わかりやすい解説

デュマ(子)
でゅま
Alexandre Dumas (fils)
(1824―1895)

フランスの劇作家、小説家。アレクサンドルデュマとベルギー生まれの裁縫女カトリーヌ・ラベーの私生児としてパリに生まれる。母親から受け継いだ堅実な市民性やモラルが、彼の作風を父とはまったく別のものにしたといわれる。年少のころから父の身辺の文学者たちと交わり、詩や小説を書き始める。社会の偏見に苦しんで歓楽街に青春を埋(うず)めた日々の体験から、初期の作品が生まれた。詩集若気の過ち』(1847)、小説『椿姫』(1848)である。父の勧めで劇化された『椿姫』は、テーマを不道徳とする検閲官の偏見にあって初演(1852)までに数年を要したが、ボードビル座での初演は破格の成功を収め、以後デュマに問題劇作家という方向性を与えた。

 贋(にせ)貴婦人野心をくじく『半社交界(ドウミ・モンド)』le Demi-Monde(1855)、金力支配を攻撃する『金銭問題』(1857)、社会の偏見を糾弾する『私生児』(1858)、姦通(かんつう)問題を取り上げた『クロードの妻』(1873)など、一見してわかるように、第二帝政の享楽的・物質的社会が生み出すさまざまな悪への直接的攻撃である。彼自身の出生原点とするこの厳しい道徳的欲求は、劇作家が裁判官説教師の役を演じるとの批判も浴びたが、身近な問題性や華麗でリアルな描写が当時の観客には新鮮だった。今日これらの作品は、テーマの有効性は失われたが、第二帝政期の風俗資料としての価値をもつ。エミール・オージエとともに19世紀写実主義演劇を担う作家である。アカデミー会員。

[佐藤実枝]

『吉村正一郎訳『椿姫』(岩波文庫)』『新庄嘉章訳『椿姫』(新潮文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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