デング熱・デング出血熱

内科学 第10版 「デング熱・デング出血熱」の解説

デング熱・デング出血熱(フラビウイルス)

3)デング熱・デング出血熱:
デング熱デング出血熱デングウイルス1型,2型,3型,4型の感染によって起こる2つの異なる病態である.世界の熱帯・亜熱帯地域ほぼ全域で患者発生があるが,特に東南アジア,南アジア,中南米において患者数が多い.デングウイルスはヒトが自然宿主であり,蚊-ヒト-蚊の感染環で維持される.ネッタイシマカおよびヒトスジシマカが主たる媒介蚊である.毎年数千万人のデング熱患者と数十万人のデング出血熱患者が発生していると推察されている.日本にはデングウイルスは侵入しておらず国内感染はないが,近年は年100人をこえる輸入例が報告されている.世界保健機関(WHO)は近年デング熱,デング出血熱という従来の病名に代え,dengueとsevere dengueという病名を用いることを提唱している.しかし,現在もデング熱,デング出血熱(およびデングショック症候群)という病名は世界的に依然として広く用いられ,さらにわが国の感染症法においてもこの病名が用いられている.
a)デング熱(dengue fever):デング熱は,デングウイルス感染によって典型的な症状を示す患者の大多数を占める一過性の熱性疾患である.感染後2~7日の潜伏期の後,発熱で発症する.頭痛,眼窩痛,腰痛,筋肉痛,関節痛が主症状であり,食欲不振,腹痛,悪心,嘔吐,脱力感,全身倦怠感を伴う.第3~5病日には麻疹様発疹が体幹,顔面に出現し四肢に広がる.二峰性発熱(解熱後再度発熱する)が特徴的である.全身のリンパ節腫脹,知覚過敏,味覚異常,呼吸器症状(咳,咽頭痛,鼻炎),結膜充血がみられたり,末梢血白血球数の減少,血小板減少や出血傾向が認められることもある.症状は約1週間で消失し,通常後遺症なく回復するが,その後倦怠感が持続することもある.致死率はきわめて低い. b)デング出血熱(dengue hemorrhagic fever)(図4-4-10,4-4-11):デング熱とほぼ同様に発症し経過するが,特に解熱時に血漿漏出および出血傾向を主症状とする重篤な病態が出現する.デング出血熱の病態の主体は,血管の脆弱化,透過性亢進,循環血液量の減少と血液凝固系の異常である.患者は不安,興奮状態となり,発汗がみられ,四肢は冷たくなる.血漿漏出によるヘマトクリットの上昇,胸水・腹水貯留が高率にみられる.肝臓腫脹,補体活性化,血小板減少(100000/μL以下),血液凝固時間延長も認められる.出血傾向は点状出血,出血斑,注射部位からの出血,鼻出血消化管出血,血便などの症状として認められる.ときに中枢神経症状が出現する.重篤な例では播種性血管内凝固症DIC)が認められる.血漿漏出が進行すると循環障害を示し,適切な治療を施さないと致死率が高い.このようにショック症状が認められるものはデングショック症候群(dengue shock syndrome)とよばれる.デングショック症候群は速く弱い脈拍および脈圧の低下,低血圧,冷たく湿った皮膚,興奮状態が特徴的症状である.[倉根一郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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