トッカータ(英語表記)toccata[イタリア]

デジタル大辞泉 「トッカータ」の意味・読み・例文・類語

トッカータ(〈イタリア〉toccata)

自由な形式の、鍵盤けんばん楽器のための技巧的な楽曲

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精選版 日本国語大辞典 「トッカータ」の意味・読み・例文・類語

トッカータ

〘名〙 (toccata) 器楽形式の一つオルガンチェンバロのためにきわめて自由な形式で書かれ、はなやかな演奏技巧を誇示できる即興的な作品が多い。一七、八世紀に全盛バッハのオルガンのための作品は有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「トッカータ」の意味・わかりやすい解説

トッカータ
toccata[イタリア]

バロック時代にさかえた鍵盤楽器のための形式で,即興演奏を思わせる自由奔放さと,至難な演奏技法の駆使が特徴である。16世紀のイタリアに始まった。最初期の曲は分厚い和音の連続と速いパッセージの交代だけからなっていたが,ベネチアのメルロClaudio Merulo(1533-1604)以来,模倣的ないしはフーガ的な部分も挿入されるにいたって,自由で即興的な部分とフーガ風の部分の交代がトッカータの目だった特徴になった。そうしたトッカータを高度に発展させたのが北ドイツ・オルガン楽派の雄ブクステフーデである。オルガンの名手として名高かったJ.S.バッハは若い頃しかこの種のトッカータを作曲しなかったが,彼の有名なニ短調の《トッカータとフーガ》(BWV565)は,1705年にリューベックのブクステフーデを訪れたときの感動をそのままに伝えている。クラビーアのための有名な《半音階的幻想曲とフーガ》(BWV903)にもトッカータ精神がみなぎっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トッカータ」の意味・わかりやすい解説

トッカータ
とっかーた
toccata イタリア語

演奏者の名人芸を誇示するような、即興風の華麗な作品。打つ、触れるを意味するtoccareを語源とするように、16世紀にはリュート鍵盤(けんばん)楽器の調子を確かめる即興的な前奏曲と同義であった。また15世紀終わりごろから19世紀まで、祝祭用のファンファーレ、あるいはその金管パートの名称としても用いられた。鍵盤楽器のための独立した作品は、17世紀前半、同時代の声楽マドリガーレの様式と高度な演奏技巧を結び付けたフレスコバルディで頂点に達する。またJ・S・バッハに代表される北ドイツ・オルガン楽派では、前奏曲と同じ即興的で奔放な様式と厳格なフーガとの組合せが好まれた。トッカータはその後、姿を消したかにみえたが、19世紀終わりごろから、フランスのウィドールCharles-Marie Widor(1844―1937)やビエルヌLouis Vierne(1870―1937)のオルガン交響曲、ドビュッシーやラベルのピアノ曲において、本来の即興的性格が強調された、細かい音符で休みなく動き回る、技巧的作品として復活した。

[関根敏子]

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百科事典マイペディア 「トッカータ」の意味・わかりやすい解説

トッカータ

楽曲の形式の一つ。楽器に〈触れる〉ことを意味するイタリア語に由来。バロック時代に盛んに用いられた主として鍵盤(けんばん)楽器の独奏曲。即興的に,その楽器にかなった音形をつないでいくのが初期の特徴。その後,対位法的な模倣を含むものが生まれ,パッヘルベルやJ.S.バッハの例にみられるように,トッカータがフーガを従えるようになった。
→関連項目フレスコバルディ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トッカータ」の意味・わかりやすい解説

トッカータ
toccata

音楽用語。語源はイタリア語の toccare (「触れる」の意) 。 (1) 17~18世紀前半に広く行われた鍵盤楽器のための楽曲形式。元来即興的な要素が強く,楽曲形式中最も自由な構造をもつ。 (2) やはり 17世紀頃用いられた語で,金管楽器のためのファンファーレ風の性格をもつ小楽曲に対して使われた (C.モンテベルディの『オルフェオ』の導入曲など) 。

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世界大百科事典(旧版)内のトッカータの言及

【バロック音楽】より

…それに対してバロック音楽は,異質的・対極的なものの緊張をはらんだ結びつけによって動的・劇的表現に向かった。これは,絵画における明暗の対比やダイナミックな表現と軌を一にするもので,声楽曲の分野ではオペラやオラトリオなどの劇音楽の形式を生み,器楽曲の分野ではコンチェルト(協奏曲)やトッカータ,ファンタジア(幻想曲)のような形式の成立を促した。具体的な表現手段に目を注ぐなら,本来異質的な響きのメディアである声と楽器の結合,二重合唱における明と暗の音色的対比,独奏(唱)と合奏(唱)の機能上の対比,強と弱(ディナーミク)の音響レベルの対置,抒情的アリアと言葉に重点をおいたレチタティーボの対比,拍節感の強い部分と無拍節の部分の併置などが挙げられるが,これらの諸要素はしばしば手を携えて芸術的な効果をあげてゆくのである。…

【フレスコバルディ】より

…フェラーラに生まれ,1608年,弱冠25歳でローマのサン・ピエトロ大聖堂のオルガン奏者となる。作品は鍵盤曲が大半を占めるが,ルネサンスの伝統的な対位法に基づくファンタジアやリチェルカーレに対して,カンツォーナやトッカータには新しいバロックの精神が示されている。とくに,マドリガルの手法を取り入れた彼独自のトッカータには,就任演奏の際に3万人の聴衆が集まったといわれ,その腕前が最もよく現れている。…

【フローベルガー】より

…ウィーンの皇帝に献呈された美しい自筆譜3巻は,ローマで師事したフレスコバルディやパリの友人たちから受け継いだ要素と,ドイツ特有の要素を結びつけた様式を示す点で,ドイツ鍵盤音楽史に重要な位置を占める。即興的な部分にフーガ部分が続くトッカータは後の壮大な〈トッカータとフーガ〉の出発点となる。フランスの影響を示す組曲では,舞曲数の固定化や和声にドイツ的傾向が見いだされる。…

※「トッカータ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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