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トリインフルエンザ トリインフルエンザ Avian influenza

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

トリインフルエンザ
トリインフルエンザ
Avian influenza

A型インフルエンザウイルスがトリに感染して起こす病気。野鳥では無症状なことが多いが,ニワトリなど家禽に感染すると大量に死亡することも少なくない。まれにヒトにうつり,死亡することがある。

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出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

トリインフルエンザ
とりいんふるえんざ

鳥類がかかるインフルエンザを総称していう。ヒトの間で流行しているインフルエンザの病原ウイルスのうち、A型はもともと鳥類の間で流行し、維持されている病原である。このA型ウイルス粒子の表面に存在する2種のスパイク、すなわち赤血球凝集素hemagglutinin(HA)とノイラミニダーゼneuraminidase(NA)の抗原性の違いによって多くの型があり、このHAとNAとの組合せによってA型ウイルスは多くの亜型に分類される(たとえばA香港(ホンコン)型はH3N2、Aソ連型はH1N1)。
 このインフルエンザウイルスの本来の宿主(しゅくしゅ)である鳥類では、自然界に存在するすべての亜型が保有されており、ヒトを始めブタ、ウマ、クジラ、アザラシ、ミンクなどからA型ウイルスが分離されているが、いずれもカモ等の野生水禽(すいきん)類から由来していることが明らかになっている。
 鳥類のうち身近な存在であるニワトリでは、高病原性(感染後死亡または強い全身症状を示す)インフルエンザウイルスに感染した場合、発病後半日から1日の元気消失を示した後に短い経過で著明な症状を現すいとまもなく死亡することも多いが、首曲がり、顔面浮腫(ふしゅ)、鶏冠(けいかん)(とさか)のチアノーゼ、出血、脚部の皮下出血、産卵機能の低下、呼吸器症状、下痢(げり)などの症状を呈して死亡する。低病原性インフルエンザウイルスの場合には、特徴的な症状を呈することはないとされている。
 このトリインフルエンザが最近とくに問題となり、急速に関心を集めるに至っている。そのきっかけとなったのは、1997年5月、香港でニワトリから直接ヒトに感染したA型ウイルスH5N1によるインフルエンザの発生(18例の確認、うち死亡6例)である。このときは香港の衛生当局の英断で140万羽といわれるニワトリの迅速な処分によって流行は終息した。
 その後、1999年H9N2(香港)、2003年H7N7(オランダ)、2004年H5N1(ベトナム、タイ)およびH7N3(カナダ)など、トリからヒトへの感染例が報告された。ことに2004年以来、H5N1ウイルスによる家禽におけるトリインフルエンザの流行が世界的な規模で発生し、各国で家禽からヒトへの感染が相次ぎ(感染393例、うち死亡248例)、重篤な症状と経過を示しており、致命率は60%という異常に高い数値である(2009年1月7日世界保健機関の発表による)。
 こうした事実から、このウイルスは現在のところはトリ→ヒトへの感染の段階で止まっているが、もしトリ→ヒト→ヒト→ヒトと感染するような性状を獲得した場合、すべての人がこのウイルスに対して免疫をもたない状態であるところから、ひとたび流行がおこれば「新型インフルエンザ」として、かつてのスペインインフルエンザやアジアインフルエンザと同様の世界的な大流行(パンデミック)をおこすことになると危惧(きぐ)されている。多くのインフルエンザ学者は、パンデミックが「おこるか否か」ではなく、「いつおこるか」が問題であるという差し迫った事態であると考えている。[加地正郎]

ヒトのH5N1インフルエンザの症状

潜伏期は毎年流行するインフルエンザ(季節性インフルエンザ)の潜伏期1~3日よりやや長く、4~6日程度とされている。
 急激に高い熱とともに発病し、頭痛、全身のだるい感じなどの全身症状とのどの痛み、鼻水などの上気道症状を訴える。この発病当初の症状は季節性インフルエンザと同様であるが、腹痛、嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状が季節性インフルエンザに比べて高い頻度でみられる点はやや特徴的である。やがて咳(せき)、痰(たん)そして呼吸困難などの下気道症状が現れ、肺炎をおこすのが特筆すべき点であり、胸部の打診、聴診さらに胸部X線検査で確認できる。さらに病状が進んで呼吸器不全をきたし、ついには心、肝、腎などの多臓器不全をおこして死亡することが多い。致死率60%という事実は、季節性インフルエンザと大いに異なる点である。さらに、季節性インフルエンザでの肺炎合併は、ウイルスの感染に引き続く細菌の二次感染によるものであるが、このH5N1ウイルスによるインフルエンザでの肺炎は、ウイルス自体によっておこるものである。
 治療としては季節性インフルエンザと同様、抗インフルエンザウイルス剤(ノイラミニダーゼ阻害薬すなわちタミフルおよびリレンザ)が用いられる。しかし、その効果はいまひとつというところで、投与量の増量および投与期間の延長が提案されており、肺炎に対しては酸素吸入その他の呼吸支持療法、強心処置などが必要となる。ステロイド、インターフェロン投与は効果が認められていないようである。[加地正郎]

感染経路および予防

現在までの報告例はいずれもH5N1ウイルス感染家禽との直接接触による感染とされている(感染あるいは感染後斃死(へいし)した家禽からのウイルスがどのような経路で呼吸器に侵入するのかまでは言及されていない)。この点は季節性インフルエンザの場合と異なっているが、今後ヒト→ヒト感染をおこす性状を獲得したウイルスがヒトの間で流行をおこす状況となれば、飛沫感染および飛沫核感染(空気感染)で流行が拡大していくと考えられる。
 したがって、個人レベルでの予防対策としては、ワクチン接種、マスク、うがい、手洗いの励行、人ごみのなかへの外出をなるべく避ける、といったことが中心となる。また特殊なケース、たとえば罹患者あるいはその同居家族との濃厚な接触による感染リスクが高い場合などでは、抗インフルエンザウイルス剤の予防内服も行われる。
 ワクチンについては、現在のところ、流行前にはプレパンデミックワクチンをあらかじめ接種しておき、流行が始まった時点でパンデミックワクチンの接種が行われることになる。
 プレパンデミックワクチンは、これまでトリから感染したヒトから分離されたH5N1ウイルスを用いてワクチンを製造、流行が始まる以前に準備しておき、新型インフルエンザ発生前の必要と判断される時期に、主として医療従事者、社会機能維持に関係する人々に接種しておく。この段階はすでに始められている。
 今後の問題としてのパンデミックワクチンは、新型インフルエンザが流行し始めた時期の罹患者から分離するウイルスを用いて、改めてつくる予定のワクチンである。インフルエンザでは同じ型(この場合はH5N1ウイルス)のウイルスでも抗原変異をおこしやすく、現在ニワトリの間で流行し、ヒトに感染しているウイルスと、ヒト→ヒト→ヒトと感染するようになったウイルスとでは抗原構造が必ずしも同一ではなく(同一でないことが多いと予想される)、ワクチンによる予防効果を十分に発揮させるためには改めてパンデミックワクチンを製造するという対応が必要とされるのである。なお、このH5N1ウイルスは抗原性(免疫をつくらせる性状)が弱いので、より強い免疫を産生させる目的でアジュバント(免疫補助剤)を添加したワクチンが用いられることになっている。
 日本をはじめ各国は、国外のある地域で新型インフルエンザの流行が始まった場合、検疫の強化などの対応によって国内へのウイルスの侵入を阻止する。それでも国内に罹患者が発生した場合には、接触者あるいは家族への伝播(でんぱ)を防ぐ措置を講じて、その地域、さらにその周囲の地域への流行の拡大を防ぐ対応を準備しておく。
 このH5N1ウイルスによる新型インフルエンザの発生とそれに引き続いておこる可能性のあるパンデミックへの対策としては、世界保健機関(WHO)を中心に世界的な規模での対応が急がれている。すなわち、世界各国でのトリインフルエンザの監視態勢とその強化、現在発生している家禽のインフルエンザ流行の囲い込み、感染家禽からヒトへの感染防止、ヒト→ヒト感染の連鎖を断つ対策、ワクチンの製造、抗インフルエンザ薬の準備と備蓄などについてWHOは各国へその実施を働きかけている。[加地正郎]
 なお、感染症予防・医療法(感染症法)では、病原体がA型ウイルスであってその血清亜型がH5N1型である「鳥インフルエンザ」は2類感染症、H5N1型を除く「鳥インフルエンザ」は4類感染症に指定されている。[編集部]
『マイク・デイヴィス、柴田裕之・斉藤隆央訳『感染爆発――鳥インフルエンザの脅威』(2006・紀伊國屋書店) ▽陽捷行編著『鳥インフルエンザ――農と環境と医療の視点から』(2007・養賢堂) ▽岡田晴恵著『H5N1型ウイルス襲来――新型インフルエンザから家族を守れ!』(角川SSC新書) ▽岡田晴恵著、田代眞人監修『史上最強のウイルス12の警告―新型インフルエンザの脅威』(文春文庫)』

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