トリバネアゲハ(読み)とりばねあげは(英語表記)birdwing butterfly

改訂新版 世界大百科事典 「トリバネアゲハ」の意味・わかりやすい解説

トリバネアゲハ (鳥羽揚羽)

鱗翅目アゲハチョウ科トリバネアゲハ属Ornithopteraの昆虫の総称。一群の巨大なチョウで,英語のbirdwing butterflyには後述のキシタアゲハ類も含まれる。ニューギニア島を中心に,ソロモン諸島モルッカ諸島,北部オーストラリアなどに分布が限られる。1885年ころ,ニューギニア探検中のイギリス人ジョン・マギリブレー散弾銃で初めて採集したトリバネアゲハは,当時在位中の女王にちなんでO.victoriaeビクトリアトリバネアゲハ)と名づけられた。この標本の翅の自然開張は23cmに達する。世界最大のチョウは同じくニューギニア産のアレクサンドラトリバネアゲハの雌で,展翅開張が23cmくらいある。

 トリバネアゲハには,雑種の疑いのあるもの2種を含めて13種が知られる。これらは雄の前翅表面に性標のあるもの(メガネトリバネアゲハ群)とないもの(ゴクラクトリバネアゲハ群)の2群に分けられる。各種とも雄は雌より翅は小さいが,体は大きく,とくに胴の長さは雌に匹敵する。斑紋や色彩はきわめて変化に富むが,金緑色,藍色,金茶色,金色などの斑紋に黒く太い帯状の縞をまじえ,きわめて豪華けんらんである。雌は雄の色彩,斑紋,翅形の差にかかわらず,黒地に白色,黄色の似た斑紋をしている。雌雄とも密林を離れず,高く飛ぶので採集は困難である。パプア・ニューギニア政府は1978年に,普通種を除いてトリバネアゲハの採集を禁止した。近縁アカエリトリバネアゲハ属の2種の翅は極端に横長である。マレー半島周辺とフィリピンパラワン島に分布する。

 これらに近い巨大アゲハ群にキシタアゲハ属約20種がある。いずれも縦長に近い翅型で,前翅は黒く,後翅には黄色の大きな部分または斑紋があり,雌雄の差は明りょうであるが,トリバネアゲハ類ほど極端ではない。表面と裏面の差も小さい。インドスリランカからニューギニア,台湾まで分布する。ブルキシタアゲハTroides prattorumは,後翅を後方から見ると青緑色に光るので知られている(上から見ると黄色の斑紋)。サビモン(またはハイイロ)キシタアゲハRipponia hypolitusは後翅に黄色紋といぶし銀色の紋をもつ。

 トリバネ,キシタ両群とも,知られている限りでは生活史がよく似ている。幼虫は,小さいときはウマノスズクサ類の若葉を食べ,10cm前後の終齢時になると,ウマノスズクサの葉でなく茎をかじる習性が強いという。マダラチョウ類と同じく,食草の有毒成分のために他の生物に捕食されることは少なく,キシタアゲハの黄色と,トリバネアゲハの金色の紋は警告色であると考えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリバネアゲハ」の意味・わかりやすい解説

トリバネアゲハ
とりばねあげは / 鳥翅揚羽蝶
birdwing butterfly

昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科の一群の総称。古くはトリバネチョウといっていたが、近年はトリバネアゲハとよぶことが普通。狭義ではOrnithoptera属(真正トリバネアゲハ属)に限定されるが、近年はそのほかに近縁のTrogonoptera属(アカエリトリバネアゲハ属)およびTroides属(キシタアゲハ属)を含めて、広義に用いられる場合が多い。

 この仲間のチョウはすべて東南アジアの熱帯地方の産で、アフリカやアメリカ大陸には分布しない。幼虫の食草は知られる限りすべてウマノスズクサ科の植物である。

 真正トリバネアゲハ属のチョウは、ニューギニア島を中心に、東はソロモン諸島、西はモルッカ諸島にまで分布し、11種が知られる。チョウのなかでももっとも大形で、雄のはねは金緑色(または黄緑色)に輝く種がほとんどで、世界の美蝶(びちょう)の一つに数えられる。この仲間の1種アレクサンドラトリバネアゲハの雌は世界最大のチョウとして有名である。

 アカエリトリバネアゲハ属のチョウは、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島、パラワン島(フィリピン)に分布する1種(学者によりパラワン島産を別種とするものがあり、この説をとれば2種)があるのみ。

 キシタアゲハ属のチョウは、西はインドから東はニューギニア島にかけての熱帯から亜熱帯に分布し、全部で20種を数える。日本近隣では台湾地域に2種(キシタアゲハ、コウトウキシタアゲハ)が分布する。

[白水 隆]

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