トーマス(Sidney Gilchrist Thomas)(読み)とーます(英語表記)Sidney Gilchrist Thomas

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

トーマス(Sidney Gilchrist Thomas)
とーます
Sidney Gilchrist Thomas
(1850―1885)

イギリスの製鉄発明家。早く父に死なれ、一家を支えるために17歳で裁判所の書記になった。しかし好学の念やみがたく、夜学に通い、家に化学実験室をつくり、学問を捨てなかった。夜学の先生チャロナーGeorge Chalonerが「転炉法で脱リンに成功すれば大金持ちになれる」と語るのを聞いて、この問題の解決に情熱を燃やした。それまではベッセマーの転炉法でも、ジーメンスマルタン平炉法でも、ケイ酸成分の酸性耐火材を炉材として使用していたが、それでは銑鉄のリンを除去できず、高炉で低リン鉄鉱石から製造した低リン銑鉄にしか適用できなかった。大部分の鉄鉱石はリンを含有しているので、転炉法も平炉法も適用範囲が限られていた。高名な製鉄家たちが脱リン法の開発に知恵を絞ったが成功しなかった。トーマスは従来の研究を検討し、塩基性石灰が脱リンの唯一の鍵(かぎ)であることを確信した。銑鉄中のケイ素が酸化されて浮上しスラグになるが、同じく酸化されてスラグに入るリンは還元されて鋼に戻ってしまう。このとき、スラグにケイ酸よりも多量の石灰を添加すると、塩基性の石灰と酸性のケイ酸は結合するが、ケイ酸と結合できない過剰石灰が酸化されたリンとしっかり結合して安定した化合物をつくり、リンはもはや鋼に戻らない。しかし従来のように酸性のケイ酸の耐火物であると、スラグ中の石灰は炉壁のケイ酸とも激しく反応して炉壁がたちまち破壊されてしまう。そのため炉壁に石灰石マグネサイトドロマイト苦灰石)などから製造した塩基性の耐火材を使用する必要があったのだが、それらの物質から耐久性のある耐火材をつくることは技術の新課題であった。彼はドロマイトを従来以上の高温で焼いてクリンカーにし、タールを接着剤に使用してこの難問を解決した。こうして塩基性耐火材が工業界に誕生し、塩基性転炉法が確立した。ベッセマーの酸性法はベッセマー法とよばれ、塩基性法はトーマス法とよばれることになった。塩基性法は平炉法にも適用され、溶鋼法は含リン銑鉄にも適用され大発展を遂げた。

中沢護人

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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