ドルトン(John Dalton)(読み)どるとん(英語表記)John Dalton

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ドルトン(John Dalton)
どるとん
John Dalton
(1766―1844)

イギリスの化学者。近代的原子論の基礎を築いた。

経歴

カンバーランド州イーグルズフィールドにクェーカー教徒の織布工の子として生まれた。村の小学校を出たのち12歳で学校を開き、のちケンダルの寄宿学校教師兼経営者を経て、1792年、マンチェスターの非国教派の学校ニュー・カレッジの数学および自然哲学の教授となった。1800年、同カレッジを辞してマンチェスターに数学と科学を教える私塾を開き、以後終生その教師として質素な生活を送った。

 彼は少年時代から数学や気象学の独習を始め、ケンダルでは盲目の学者ゴフJohn Gough(1757―1825)の教えを受けた。1794年にマンチェスター文学哲学協会Manchester Literary and Philosophical Society(1781年創立)の会員となって、以後この協会に拠(よ)って科学研究を続け、1800年書記、1808年副会長、1817年会長となった。

[内田正夫]

研究と業績

科学に対する彼の最大の貢献は原子論であるが、その着想起源は初期の気象学研究にあった。1787年から始めた気象観測は死の前日まで57年間20万回以上の記録を残したといわれる。1793年、気象観測の記録と、貿易風・オーロラ・気圧変動・蒸発などに関する考察をまとめて、最初の著書『気象学的観測と論文集』Meteorological Observations and Essaysを出版した。ここにすでに分圧の法則の萌芽(ほうが)がみられるが、彼は引き続いて大気中の水蒸気や大気の構成の問題を追究していった。やがて1801年、同種気体粒子の間には反発力が働くが、異なった種類の気体粒子の間には反発力が働かないという仮説に基づいて、混合気体の分圧の法則(ドルトンの法則)を提唱し、大気が機械的混合物であることを説明した。また、気体の熱膨張が一定であること(シャルルの法則)も述べている。

 1802年、友人のW・ヘンリーとの共同研究において、水に対する気体の溶解度がその圧力に比例すること(ヘンリーの法則)を明らかにしたが、さらに翌1803年、気体の種類によって溶解度が異なる理由を、気体の「究極粒子の重さと数」の違いに求めた。こうして1803年9月6日の実験ノートに最初の原子量表と円形の原子記号が記されたのである。これは、水素、酸素、窒素などの元素それぞれに対応する原子を想定し、水、アンモニアなどの化合物の組成分析値からそれらの原子1個ずつの重量比すなわち原子量を求めたものである。10月に文学哲学協会に提出された論文「水その他の液体による気体の吸収について」The Absorption of Gases by Water and Other Liquidsでは、「物体の究極粒子の相対重量に関する研究は私の知る限りまったく新しい課題である」と述べている。

 翌1804年、メタン(CH4)とエチレン(C2H4)の分析から倍数比例の法則を確かめるなど、ドルトンは原子論が化学にとって重要な内容をもっていることをしだいに深く認識していき、その詳細は1808年出版の主著『化学の新体系』New System of Chemical Philosophy(第1巻第1部〈1808〉、第2部〈1810〉、第2巻第1部〈1827〉)において展開された。古代ギリシア以来の哲学的原子論は、ラボアジエによって確立された近代的元素概念と結合され、原子量という規定性を与えられることによって、近代化学の基礎理論となったのである。

 ドルトンの原子論はトムソンThomas Thomson(1773―1852)の熱烈な支持を得て普及したが、デービーやウォラストンのような有力な化学者のなかには原子論を思弁的な考えとする根強い反対があった。またドルトンの原子量決定法は、原子の結合様式について、最単純性の原理という仮定(たとえば水の分子式は⦿○すなわちHOとされる)のうえにたっていたので、そのままではゲイ・リュサックの気体反応の法則(1808)やアボガドロの仮説(1811)と調和させることができず、彼自身はこれらの法則を認めなかった。にもかかわらず、これらの研究やベルセリウス(ベルツェリウス)の精確な原子量測定などによって原子論はいっそう豊かな内容を獲得し、化学に欠くことのできないものとなっていったのである。

 なお、ドルトンは自分が色覚異常(赤緑色覚異常)であることに気づいてそれを初めて科学的に研究した人でもある。そのため英語で赤緑色覚異常のことをdaltonism(ドルトニズム)という。

[内田正夫]

『原光雄著『近代化学の父――ジョン・ドールトン』(1951・岩波書店)』

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