ニオブ

デジタル大辞泉 「ニオブ」の意味・読み・例文・類語

ニオブ(〈ドイツ〉Niob)

バナジウム元素の一。単体は灰白色で、展延性に富む金属。融点が高く、塩酸・熱硫酸に溶けるが、硝酸アルカリには溶けない。耐熱合金の添加材、超伝導材料などに利用。かつてはコロンビウムといった。元素記号Nb 原子番号41。原子量92.91。

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精選版 日本国語大辞典 「ニオブ」の意味・読み・例文・類語

ニオブ

〘名〙 (Niob) 土酸金属の一つ。元素記号 Nb 原子番号四一。原子量九二・九〇六三八。灰白色の金属。等軸晶系。天然にはコロンブ石などの希元素鉱物中に含まれ広く存在する。一八〇一年、イギリスチャールズ=ハチェットが発見。合金添加元素として各種合金に使用。〔稿本化学語彙(1900)〕

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化学辞典 第2版 「ニオブ」の解説

ニオブ
ニオブ
niobium

Nb.原子番号41の元素.電子配置[Kr]4d45s1の周期表5族遷移金属元素.原子量92.90638(2).天然には,質量数93の同位体のみが存在する単核種元素.81~113の放射性核種が知られている.1801年,イギリスのC. Hatchettが大英博物館所在の北米産のコルンブ石(columbite)と名づけられた鉱物中から新金属元素を発見し,コロンビウムと命名したが,ともに産出するタンタルの間違いであるとされた.1844年,ドイツのH. RoseはHatchettの新元素がタンタルとは別物であることを明らかにし,新元素をタンタルとともに産出することから,ギリシア神話のタンタルスの娘ニオベにちなんでニオブと命名した.1949年,niobiumがIUPACにより採用されたが,最近でもアメリカの金属鉱業界などではコロンビウムという名称も用いられている.日本語の元素名はドイツ語の元素名を採用した.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,格綸彪母(コリュムビウム)としている.
比較的広く存在する元素であるが,産出量は少ない.資源的に極端に偏在していて,ブラジルに世界の埋蔵量の90% 以上,ついでカナダである.地殻中の存在度11 ppm.コルンブ石としてニオブ酸塩の形で産出するほか,希土類元素の鉱物中に含まれることもある.製錬はアルカリ融解したのち,ニオブ酸塩として抽出し,酸で処理して得たニオブ酸をフッ化水素酸に溶かしてフルオロ錯塩の形でイソブチル=メチル=ケトンを使用する溶媒抽出法でタンタルと分離する.金属は,酸化物をアルミニウムナトリウム,炭素などで還元するか,溶融フッ化物の電解によって得られる.歴史的には,塩化物を水素で還元して得られた.金属ニオブは灰白色で軟らかく,展延性をもつ.等軸晶系に属する.密度8.570 g cm-3.融点2468 ℃,沸点4930 ℃.9.25 K 以下で超伝導となる.仕事関数は3.96 V と小さい.原子半径0.143 nm.イオン半径0.069 nm(Nb5+,六配位).0.074 nm(Nb4+,六配位).標準電極電位 Nb3+/Nb-1.1 V.第一イオン化エネルギー663.7 kJ mol-1(6.88 eV).空気中では表面に酸化膜をつくって不動態となり,きわめて安定である.高温では水素を吸収してもろくなる.1000 ℃ 以上で窒素と反応して窒化物となる.塩素と200 ℃ 以上で反応して五塩化ニオブを生じる.常温では水に侵されないが,熱水蒸気と反応して水素を発生する.硝酸,熱濃硫酸に可溶,フッ化水素酸に微溶,アルカリに不溶.ニオブには,通常,酸化数2~5が知られており,酸化数5がもっとも安定である.これらの酸化数に相当する化合物のほかに,酸化数1に相当する(C5H5)Nb(CO)4や,[Na((CH3OCH2CH2)2O)2][Nb(CO)6]も知られている.組成の明らかな化合物はほとんどがもっとも安定な酸化数5の化合物で,低酸化数の化合物は一般にきわめて不安定である.酸化物,ニオブ酸塩,ハロゲン化物,オキシハロゲン化物,硫化物,水素化物,窒化物,炭化物,ケイ化物,ホウ化物,そのほか錯化合物などが知られている.
用途は,量的にはほとんど高張力鋼(自動車・造船用),ステンレス鋼,耐熱超合金(航空機エンジン)用で,鉄との合金フェロニオブの形で供給され,鋼に添加される.希少資源で価格・供給に問題があるタンタルのかわりにニオブを使った小型コンデンサー(キャパシター)がパソコン・携帯電話機用に用いられる.高屈折率高級レンズ材料としても使用される.そのほか,Nb3Geは23 K,Nb3Snは18.1 K,Nb0.6Ti0.4は9.8 K,Nb自身も9.25 K で超伝導となるので,最近,MRI(磁気共鳴映像法)用超電導磁石や大型加速器用超伝導加速空洞用材料としての需要が加わり,とくにITER(国際熱核融合実験炉)用の超伝導コイル材料としての大口需要がある.資源エネルギー庁・要注視鉱種に指定されている.[CAS 7440-03-1]

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改訂新版 世界大百科事典 「ニオブ」の意味・わかりやすい解説

ニオブ
niobium

周期表第ⅤA族に属するバナジウム族元素の一つ。1801年イギリスのハチェットCharles Hatchett(1765-1847)は,大英博物館に陳列してあるアメリカのコネティカット州産のコロンブ石columbiteと呼ばれる鉱物中から新元素を発見し,コロンビウムcolumbiumと名づけた。しかしこれに対しては反論も多く,タンタルと同じ元素とされたが,44年ドイツのローゼHeinrich Rose(1795-1864)はコロンブ石からタンタルとともに他の新元素を発見し,これがタンタルと似ていることから,タンタルの語源であるギリシア神話のタンタロスの娘ニオベNiobēにちなんでニオブと命名した。後にニオブとコロンビウムは同一元素であることが明らかになり,ニオブの名に統一された。広く希元素鉱物中に存在するが,濃縮された鉱床は少ない。おもな鉱石はコロンブ石,タンタル石,パイロクロア。

鋼灰色金属。タンタルよりは軟らかく,展延性がある。線,板などへの加工はタンタルよりは容易である。空気中では薄い酸化皮膜におおわれる。窒素とは1000℃で反応する。水には溶けず,侵されないが,熱時に水を分解して水素を発生する。塩酸,熱硫酸に溶け,フッ化水素酸にやや溶ける。硝酸に不溶。アルカリ溶液には溶けないが,アルカリ融解では溶けてニオブ酸塩となる。

酸化ニオブNb2O5含有量が0.3%以上の鉱石が採掘対象とされ,磁力選鉱,浮遊選鉱によってNb2O565%程度の精鉱とする。これにアルミニウム粉末と酸化鉄(Ⅲ)を加え,テルミット法でフェロニオブとして得る。高純度のニオブを製造する場合は,鉱石をフッ化水素酸と硫酸で分解し,メチルイソブチルケトン(MIBK)によって不純物およびタンタルを分離してNb2O5とし,炭素で還元する。融点が高いので真空アーク融解法,電子ビーム溶解法,粉末冶金法などでインゴットとする。

純金属ニオブの形で使われることは少なく,フェロニオブの形で生産して鉄鋼への添加用とされる。酸化ニオブとして光学ガラスの添加材,セラミックス,コンデンサー,強誘電体素子などに,炭化ニオブは超硬合金の添加材に利用される。炭素鋼へニオブ0.1%以下の量をバナジウムまたはモリブデンなどと添加することにより高張力鋼とされ,また耐熱鋼,ステンレス鋼,工具鋼などにはニオブを添加した鋼種が多い。ニオブは鋼中の炭素と結びつきやすく,結晶粒微細化の効果をもつ。最近は超伝(電)導材料としてニオブの金属間化合物(Nb3Snなど)が注目されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニオブ」の意味・わかりやすい解説

ニオブ
におぶ
niobium

周期表第5族に属し、バナジウム族元素の一つ。原子番号41、元素記号Nb。同族のタンタルとつねに随伴するため、タンタル命名のもととなったギリシア神話のタンタロスの娘ニオベNiobeから命名された。アメリカのコネティカット州で採集され、大英博物館に陳列されていたコルンブ石columbiteからイギリスのハチェットCharles Hatchett(1765―1847)によって1801年に発見され、コロンビウムcolumbiumともよばれた。当時、コロンビウム、ニオブ、タンタルの三者は混同されることが多かったが、ドイツのローゼHeinrich Rose(1795―1864)がコルンブ石からタンタルとともに単離し命名した(1844)。のちにコロンビウムとニオブが同一元素であることが認められ、ニオブの名が1949年に至って国際的に確定された。現在でもアメリカではコロンビウムの名が用いられることもある。

 天然にはコルンブ石(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6のような複酸化物として産出する。鉱石を砕いてフッ化水素酸で分解し、溶媒抽出法によって分離精製して高純度の酸化物を得、酸化物の炭素還元あるいは塩化物のナトリウム還元で鋼灰色の単体金属を得る。低温度でも延・展性に富むが、機械的性質は不純物に影響され、とくに水素を吸収するともろくなる。室温ではフッ素、フッ化水素酸以外には溶解しない。耐食性あるいは耐熱性合金材料として重要な希金属の一つである。

 ニオブの化合物は、一般にタンタル化合物に似ている。酸化数+Ⅴの化合物が一般に安定であるが、+Ⅱ、+Ⅲ、+Ⅳの化合物も知られている。+Ⅴの酸化物は他の塩基性酸化物と複酸化物をつくるが、それらは一般にニオブ酸塩niobateと称されている。ニオブ酸リチウムLiNbO3、五ニオブ酸二バリウムナトリウムBa2NaNb5O15(俗称バナナ)などは電気・光学的に特徴のある材料として電子・光学製品の重要な素子に利用されている。

[岩本振武]


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百科事典マイペディア 「ニオブ」の意味・わかりやすい解説

ニオブ

元素記号はNb。原子番号41,原子量92.90637。密度8.570,融点2468℃,沸点4930℃。周期律表第5(VA)族(バナジウム族)の元素の一つ。1801年C.ハチェットが発見。初めコロンビウムと呼ばれたが,1844年ローゼは,タンタルとともにこの元素を分離し,先に知られていたタンタルにちなみ,タンタラスの娘ニオベの名をとってニオブと命名。灰白色の金属。展性,延性に富み,空気中で安定。酸に不溶,アルカリに可溶。耐熱合金材料,原子炉用材,超電導材料などに利用。酸化物(ニオブ酸塩)はセンサー用などの特殊セラミックスに利用。天然にはコロンブ石,フェルグソン石,タンタル石などとして産。酸化物をアルミニウムなどで還元してつくる。
→関連項目耐候鋼チタン合金レアアース

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニオブ」の意味・わかりやすい解説

ニオブ
niobium

元素記号 Nb ,原子番号 41,原子量 92.90638。周期表5族,バナジウム族元素の1つ。天然にはニオブ石,コルンブ石などとして産出する。地殻には平均 20ppm存在し,海水中の存在量は 0.01 μg/l 。 1801年イギリスの化学者 C.ハチェットにより発見され,コロンビウムと名づけられたが,02年に発見されたタンタルに酷似するので,両者は長い間同一元素とされた。 65年,H.ドビーユと L.トルーストによって,ギリシア神話のタンタロスの娘ニオべにちなみニオブの名がつけられた。単体は灰白色の金属で,展延性がある。融点 1950℃,比重 8.56。化合物は加水分解を受けやすい。ニオブは各種合金に添加され,その品質を高めている。特に鋼材中の炭素固定剤として重要な役割を果す。

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世界大百科事典(旧版)内のニオブの言及

【高融点金属材料】より

…融点の高い金属材料,とくにタングステン,タンタル,モリブデン,ニオブと,これらの合金をさすことが多い。元素を融点の順に並べてみると,タングステン(3387℃),レニウム(3180℃),タンタル(2996℃),オスミウム(2700℃),モリブデン(2610℃),ニオブ(2468℃),イリジウム(2447℃),ホウ素(2300℃),ルテニウム(2250℃),ハフニウム(2150℃)となる。…

【タンタル】より


[存在]
 広く存在するが,濃縮された鉱床は少ない。つねにニオブと共存し,鉱石が同じで,それらから取り出して分離する方法が問題になる。鉱石にはコロンバイト,タンタライトなどがある。…

※「ニオブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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