ニクソン(Nicholas Nixon)(読み)にくそん(英語表記)Nicholas Nixon

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ニクソン(Nicholas Nixon)
にくそん
Nicholas Nixon
(1947― )

アメリカの写真家。デトロイト生まれ。ミシガン大学アメリカ文学を専攻し1969年に卒業。大学在学中に写真撮影を始め、69~71年デトロイトで建築写真家として働き、71~73年ミネアポリスの高校で写真を教える。74年ニュー・メキシコ大学より美術修士号を得る。同年よりマサチューセッツ州ケンブリッジに移り、マサチューセッツ芸術大学で教鞭をとりながら写真家として活動。

 早くからフィルムサイズ8×10インチの大型ビューカメラを使用、主に都市風景と取り組む。ボストンの街並を高い視点から見晴らした初期作品が、1975年にジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)で開催された「ニュー・トポグラフィックス」展にとりあげられ、新しい風景表現を試みる新進の写真家として評価を得る。引き続き都市風景に大型カメラで取り組むうちに、しだいに風景の中に人間の姿を捉えるようになり、主題を風景から人間へと移していく。70年代末から80年代初めにかけて、三脚に据えた大型のカメラという条件を感じさせない、被写体との距離の近い、空間の中に複数の人物を流動的に捉えるスタイルを確立。50年代から60年代にかけて小型カメラを用いた写真家たちが切り拓いてきたスナップショット視覚と、大型カメラによる精緻な描写力を融合させた独自の方法論が注目を集めた。

 1975年に妻とその3人の姉妹を被写体とする「ブラウン・シスターズ」のシリーズに着手。一列に同じ順で立ち、レンズを見つめる4人の姉妹を正面から撮影するというルールで毎年1カットずつ追加されていくこのシリーズは、ありふれた家族写真の形式を借りながら、姉妹それぞれの視線表情による心理劇でもあった。そこに時間軸が導入されることで、家族をめぐる歴史や記憶を喚起し、また加齢による肉体の変化も浮かび上がらせ、大型カメラによる人物写真という彼の方法論を深化させるものとなった。

 1980年代には、養護施設に暮らす老人たちのポートレートや、自らの2人の幼い子供と妻を被写体としたヌードの母子像連作など、より被写体に接近し、肉体そのものをクローズ・アップする作品に取り組んだ。時間の中で有限のものとして生きる人間存在を、肉体の精緻な描写から浮かび上がらせる作品と評価されている。また87年にはエイズ感染者を被写体とするシリーズに着手、80年代後半にアメリカ社会を揺るがせた主題への真摯な取り組みとして話題を呼んだ。

 1988年、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で「ピクチャーズ・オブ・ピープル」と題する個展が開催され、アメリカ各地を巡回。90年代以降も大型カメラによる人間像を追求している。

[増田 玲]

『People with AIDS (1991, David R. Godine, Boston)』『The Brown Sisters (1999, The Museum of Modern Art, New York)』『Nicholas Nixon et al.Nicholas Nixon; Pictures of People (1988, The Museum of Modern Art, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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