ニラ(読み)にら

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニラ」の意味・わかりやすい解説

ニラ
にら / 韮
[学] Allium tuberosum Rottl. ex Spreng.

ユリ科(APG分類:ヒガンバナ科)の多年草。葉を食用とするため栽培される。中国西部原産といわれるが、明らかではない。地中に短い根茎があり、多数の鱗茎(りんけい)をつくって株状になる。葉は各鱗茎に数枚つき、長さ15~20センチメートル、幅3~10ミリメートル、扁平(へんぺい)で背面に稜(りょう)があり、先端は丸い。濃緑色で柔らかく、特有のにおいがある。葉鞘(ようしょう)は3~6センチメートル。夏、40~70センチメートルの茎を出し、茎頂に白色花を20~40個開く。花は小さく6枚の花被片(かひへん)からなる。秋に結実し、種子は黒色、ゴマ粒大である。

 栽培は株分けまたは実生(みしょう)による。寒さにも暑さにも強く、盛んに株分かれして殖える。霜にあうと地上部は衰えるが、地下部は越冬する。葉は地際から鎌(かま)で刈り取って収穫する。再生力が強いので、年に2、3回収穫できる。最近は中国料理の普及により需要が増え、冬はビニルトンネルをかけたり、株を掘り出してビニルハウス内に移植し、冬季にも収穫する。また早春に出荷のための促成栽培も行われている。このほか、株に土を盛ったり、フレーム内で遮光して軟化栽培も行われる。品種も増え、近年は在来品種より葉幅の広い台湾系の品種が多く栽培される。また、つぼみのついた若い茎を食べるための品種(テンダーポールなど)の栽培も増えている。花茎をとるための品種群をハナニラという。

[星川清親 2019年1月21日]

利用

鮮緑色の葉を、酢みそ和(あ)え、卵とじ、炒(いた)め煮、各種の鍋物(なべもの)、雑炊などに用いる。中華料理では多くの料理に用いられるが、ギョウザには不可欠とされ、レバーニラ炒めなどが好まれる。いわゆるニラの刺激臭は、含硫化合物を主とする成分によるもので、肉類のにおい消しに適している。養分は、生葉100グラム中タンパク質2グラム、糖質2.8グラム、カルシウム50ミリグラム、カリウム450ミリグラムなどで、ビタミンA、Cがきわめて多く、B1、B2なども多く含み、昔から強壮に効があるとされる。種子は漢方で韮子(キウシ)とよび、泌尿器系の病気に用いられる。

[星川清親 2019年1月21日]

文化史

中国では3000年の歴史がある。周族の居住であった豳(ひん)の祭事には、ヒツジとともにニラが供えられた。ニラは本来、韭と書かれ、呉音でク、漢音でキョウ、現代中国音ではチョウと発音されるが、いずれも久と同音である。ニラは多年生の野菜で、それが「久しい」と結び付いた。中国では古代から主要な野菜で、『史記』(前91)の貨殖列伝に「千畦薑韭。此其人皆與千戸侯等」(千畦(せんのあぜ)のショウガとニラは千戸の領主〈の収入〉と等しい)の記述がある。かつて中国では元旦(がんたん)に五辛(ニラ、大小のニンニクアブラナコエンドロ)を食べ、体内の病魔を払い、長命を願う風習があった(『荊楚歳時記(けいそさいじき)』〈6世紀〉)。邪気を退散させるとみられたのは、ニラの臭気にもよる。それは揮発性の含硫化合物のメチルジスルフィドが主成分である。『古事記』には加美良(かみら)、『日本書紀』には計美良(かみら)と綴られるが、これらは香ミラの意味で、臭(にお)いに注目した名である。『万葉集』には久君美良(くくみら)が1首(巻14)歌われ、茎ニラと解釈されている。

[湯浅浩史 2019年1月21日]


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食の医学館 「ニラ」の解説

ニラ

《栄養と働き》


 原産地は中国で、ユリ科の緑黄色野菜です。わが国へは9世紀に伝わったといわれていて、『古事記』や『日本書紀』にもその名が登場しており、栽培の歴史の古さがうかがえます。
 一般的には緑色の大葉ニラが知られていますが、黄ニラ、花ニラといった種類もあります。
 黄ニラは日光にあてずに軟白栽培(なんぱくさいばい)したもので、花ニラはつぼみが花を咲かせないうちに、茎といっしょに食用にするものです。
〈硫化アリルが血行をよくし、ビタミンB1の吸収を高める〉
○栄養成分としての働き
 栄養的には、各種ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富です。カロテンが多く含まれており、体内でビタミンAにかわり、のどや鼻の粘膜(ねんまく)を丈夫にします。
 特有のにおいは硫化(りゅうか)アリルで、これは消化液の分泌(ぶんぴつ)をうながし、内臓の動きを活発にする働きがあります。血行をよくし、かぜ予防に効くともいわれています。
 また、硫化アリルにはビタミンB1の吸収を高める作用もあり、新陳代謝(しんちんたいしゃ)を活発にします。
 硫化アリルは硫黄化合物(いおうかごうぶつ)で、これは代表的な発がん抑制物質の1つでもあります。
 さらに、セレンという栄養素も含み、がん予防の強い味方となってくれます。
 セレンは、近年、注目されている栄養素で、体内の過酸化脂質(かさんかししつ)を取り除き、活性酸素の発生を抑える働きをします。コウライニンジンやニンニク、タマネギなどにも含まれています。
○漢方的な働き
 ニラは北海道や東北地方など、寒さのきびしい地域でよく利用されてきました。
 ニラに体をあたためる作用があるためで、常食すると冷え症や神経痛、しもやけなどの改善に効果があるといわれています。

《調理のポイント》


 香りが気になるようだったら、下ゆでをしてから調理をしましょう。しかし、ビタミンの効率を考えるなら、生のまま使ったほうがいいでしょう。
 レバニラ炒(いた)めがポピュラーな料理ですが、これは、ニラのビタミンCが鉄分の吸収を効率よくしてくれるので、貧血予防におすすめのメニューです。
 一過性の下痢(げり)にはニラ雑炊(ぞうすい)を。ニラを細かく刻んで雑炊の中に入れ、よく煮ます。これを熱いうちに食べると症状がやわらぎます。これは、昔から民間療法として行われてきた家庭療法です。
 がん予防に働くセレンは、ビタミンEといっしょにとると抗酸化力が高まるので、アーモンド油などビタミンEを多く含む植物油を利用して調理するといいでしょう。
 アレルギー体質の人や胃弱の人は、症状が悪化することもあるので、食べすぎに注意してください。

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改訂新版 世界大百科事典 「ニラ」の意味・わかりやすい解説

ニラ (韮)
Allium tuberosum Rottl.

ユリ科の宿根多年草。別名フタモジ,古名をミラ,コミラともいう。東部アジアの原産といわれ,東洋的な野菜で欧米での栽培はない。俗称を起陽草ともいうが,男性の精力を増進するところからの命名ともいう。中国,フィリピン,インド,インドネシア,台湾などに広く分布している。日本では900年ころから栽培され,かゆなどに入れて用いられてきた。鱗茎から生じた株は盛んに分げつし,多数の葉を生ずる。葉長20~30cm,葉身部は扁平で細長く葉肉は厚い。葉色は鮮緑色で独特の強臭がある。8~9月に30cm内外の花梗を抽出し,茎頂に散形花序の白色の小花をつける。日本では品種はあまり分化していないが,小葉(こば),大葉(おおば)などの系統に分けられる。小葉には在来品種が多く,大葉には満州,グリーンベルトなどの品種がある。第2次大戦前にも栽培はあったが,昭和30年ころから急激に増えはじめた。栽培は栃木県が多く,群馬県,茨城県などの北関東に産地が多い。高温や乾燥にも強いので作りやすく,繰り返し刈り取って収穫できるので家庭菜園での栽培にも向くが,酸性土壌に弱いので注意を要する。病虫害としてはとくにアブラムシとネダニの発生に注意する。ニラは栄養に富むが,葉に特有の強い臭味があるので戦前の利用は少なかったが,戦後,ギョーザなど中国料理が普及するにつれて需要が増加した。いため物など油を使っての料理によく使われる。ふつう葉が食用とされるが,花茎を利用することもある。漢方では種子を血液浄化剤,強心・強壮剤にも使う。なお文学などではleekをニラと訳すことが多いが,これは正しくは近縁の別種リーキ(別名ニラネギ,セイヨウネギ,ポロネギ)のことである。
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百科事典マイペディア 「ニラ」の意味・わかりやすい解説

ニラ

中国南部〜東南アジア原産といわれるユリ科の多年草。花茎は高さ30〜40cmで白色の小花を多数つけ,扁平な線形葉を下部から出す。実生(みしょう)苗か株分けで繁殖。葉は柔らかく特有の強いかおりがあり,栄養価が高く生食,煮食する。また花は塩漬にして食べる。

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栄養・生化学辞典 「ニラ」の解説

ニラ

 [Allium tuberosum].ユリ目ユリ科ネギ属の多年草.ネギの仲間.葉を食用にする.

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