ニーダム(Rodney Needham)(読み)にーだむ(英語表記)Rodney Needham

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ニーダム(Rodney Needham)
にーだむ
Rodney Needham
(1923―2006)

イギリスの社会人類学者。ロンドン大学に入学したが、1年後にオックスフォード大学(マートン・カレッジ)に移り、エバンズ・プリチャードに師事し、1953年に「プナンの社会組織」と題する博士論文により、オックスフォード大学から学位を取得。1956年からオックスフォード大学人類学講師、マートン・カレッジのフェローとなり、1976年にオックスフォード大学教授、オールソールズ・カレッジのフェローとなる。1990年にオックスフォード大学を定年で退職。ボルネオのプナン、インドネシアスンバ島マラヤなどで実地調査を行った。

 ニーダムの社会人類学の特色は三つに分けられる。第一は親族関係、社会組織に関するものである。民族誌『マンボル――スンバ島北西の一領域における歴史と構造』(1987)の重点出自、カテゴリー(親族の関係名称)、婚姻縁組に置かれている。縁組については、最初の著書『構造と感情』(1962)において、いくつかの父系社会で母方交差いとこ婚(母の兄弟の娘との婚姻)が義務づけられ、あるいは優先されたりするのに対して、父方交差いとこ婚(父の姉妹の娘との婚姻)は禁じられるという習慣に関するレビ・ストロースの構造主義的解釈へのホマンズとシュナイダーDavid Murray Schneider(1918―1995)の批判を、豊富な事例によって退けた。

 第二は、象徴的分類に関する研究である。自ら編集した『右と左――象徴的二元論』(1973)や著書『象徴的分類』(1979)、『対位法』(1987)などで、象徴的分類研究の方法論について述べている。彼によれば、象徴的分類は民族誌の事実を丹念に分析した結果とらえられる集合表象であって、その社会の人々にかならずしも意識されているとは限らないという。またフランスのルイ・デュモンの、善は悪と反対のものであるが、悪のない世界が善であるはずはないから、善は悪を含んでいるという批判に対して、ニーダムは、悪の属性は紛れもなく善のそれと相いれないものであり、善が悪を含むという説は間違っていると論じている。さらにデュモンは象徴体系に関するニーダムらの研究は社会形態の状況を軽んじているというが、ニーダムは、象徴体系の研究は社会構造や社会的状況ないしコンテクストとの関連で分析しており、デュモンの批判はあたらないと反論している。したがって、象徴的二元論の研究においてはコンテクストがあいまいで、抹消されてしまうというデュモンの批判も間違っているとしている。

 第三に、間違っていると思われる批判に対しては、一つの民族誌的事実だけでなく、いくつもの民族誌をあげて反証を示しているので、ニーダムの主張は強い説得力をもつものになる。自分のある考え方を主張するときも、豊富な全世界にわたる民族誌的データによって裏づける。彼の研究全体を通じて冷徹な経験主義・実証主義がうかがえる。それとともに、社会人類学者として重要なことは、フィールドワークによる一つの民族誌的研究を試みるだけでなく「世界中のさまざまな文化伝統の分布と特色を知ることであり、文字どおり世界的規模で人間を考えなければならない」と述べている。こういう態度は彼を比較文化的研究に促すことになる。比較研究にも優れ、ニーダムは自らを比較主義者であるともいっている。

[吉田禎吾 2018年12月13日]

『三上暁子訳『構造と感情 人類学ゼミナール4』(1977・弘文堂)』『R・ニーダム著、江河徹訳『人類学随想』(1986・岩波書店)』『吉田禎吾・白川琢麿訳『象徴的分類』(1993・みすず書房)』

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