ネクラーソフ(Viktor Platonovich Nekrasov)(読み)ねくらーそふ(英語表記)Виктор Платонович Некрасов/Viktor Platonovich Nekrasov

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ネクラーソフ(Viktor Platonovich Nekrasov)
ねくらーそふ
Виктор Платонович Некрасов/Viktor Platonovich Nekrasov
(1911―1987)

ソ連の小説家。ウクライナの首都キエフ(現、キーウ)の医師の家に生まれる。キエフ建設大学建築学部を卒業と同時にキエフの演劇研究所に学び俳優となったが、第二次世界大戦に工兵として招集され、スターリングラード(現、ボルゴグラード)の戦いに参加、負傷して退役。ジャーナリストに転身、ヒロイックな戦争の裏面にある兵士たちの苦悩と日常を描いた『スターリングラードの塹壕(ざんごう)にて』(1946。1947スターリン賞)を発表して一躍有名になった。復員兵士を主人公にした『故郷の町にて』(1954)、人妻の情事を描く『キーラ・ゲオルギエブナ』(1961。邦訳『夏の終わり』)は平和な日々にも影を落とす戦争体験を追究した問題作で、ほかにルポルタージュ大洋両岸にて』(1962)で体制批判を行った。ソ連軍のチェコ侵入を公然と非難したことなどによりソビエト作家同盟を除名され、1974年亡命、家族とともにパリに住んだ。パリでは、亡命作家ウラジーミル・マクシーモフが創刊した『コンチネント』誌の編集長(1975~1982)を務め、『傍観者手記』(1975)、『視点と取るに足りぬこと』(1977)、『壁の両側にて』(1978)、『遠い旅から戻りながら』(1971~1981)、『悲しい小さな物語』(1986)を、『コンチネント』誌などに発表し、ニューヨークロンドンフランクフルト単行本として刊行する。いずれも西欧についての新しい印象と考察を過去の回想とともに語り、ソ連の政策と自省を込めた時代に対する証言となっている。1987年3月、パリで死んだが、1980年代後半の「ペレストロイカ(建て直し)」以降、ロシア本国でもこの作家の再評価が進み、国外で発表された作品を含めた著作集(1989)が、ロシアでも出版されるようになった。

[水野忠夫]

『草鹿外吉訳『夏の終わり(キーラ・ゲオルギエブナ)』(『世界文学全集30』所収・1965・集英社)』『佐々木彰他訳『世界文学大系第94 現代小説集』(1965・筑摩書房)』『川崎浹訳『大洋の両岸にて』(『全集・現代世界文学の発見11』所収・1970・学芸書林)』『ソヴェート文学研究会訳『ソヴェート文学短編集 1917~1967』(1970・理想社)』『小泉猛他訳『現代の世界文学 ロシア短篇』(1971・集英社)』

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