ハゴロモ(読み)はごろも

改訂新版 世界大百科事典 「ハゴロモ」の意味・わかりやすい解説

ハゴロモ (羽衣)
flatid planthopper

優美な名のとおり,この半翅類一群昆虫は,美しい大きな翅を有する種が多く,分類学的には,ハゴロモ科Ricaniidae,ハゴロモモドキ科Nogodinidae,アオバハゴロモ科Flatidaeに分けられる。熱帯地方に種類が多く,日本からは十数種が知られ,すべて本州以南に分布し,北海道には生息しない。大きさはほとんどの種が頭部から翅端まで1cm前後である。前翅が大きく,細かな翅脈を有し,種々の色彩や斑紋をあらわすか,ある種では翅全体が透明に近い。この類は年1回,夏から秋にかけて成虫が発生し,枯れた植物の組織中に卵を産みつける。そのまま卵で冬を越して,翌年の初夏ころから幼虫孵化(ふか)する。幼虫は白色の蠟状物質で体が覆われ,植物上に群がることが多い。そして腹部から長くのびた分泌物からなる尾毛状のものを形成し,これが放射状に広げられ,跳躍して植物から離れる際に,ゆっくりと落下して着地する。

 全体に美しい鮮緑色をしたアオバハゴロモGeisha distinctissimaはふつうに見られ,庭木に発生することもある。多種類の植物から吸汁するが,クリ,クワイチジク,サクラ,チャなどの害虫とされる。またミカン類にも寄生し,ミカンの萎縮病を媒介する。ベッコウハゴロモRicania japonicaも小灌木の密生しているような場所に多く,前種と混生することがあり,寄主植物も広く類似する。ミカン類,マメ類の害虫とされることがある。スケバハゴロモEuricania fascialisは名のとおり,翅がほとんど透明で,平地の林縁や草地に見られる。クズの葉上などに多い。天敵については,幼虫のときはテントウムシ類に捕食され,成虫はハゴロモヤドリガセミヤドリガ科)に外部寄生されることが知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハゴロモ」の意味・わかりやすい解説

ハゴロモ
はごろも / 羽衣

昆虫綱半翅(はんし)目同翅亜目ビワハゴロモ上科Fulgoroideaのなかの数科の昆虫を広義総称とし、そのなかのハゴロモ科は狭義の総称。

 ハゴロモ科は中形種が多く、体長5~10ミリメートル、前翅は三角形状に広がりチョウに似る。前翅には多くの脈があり、とくに前縁脈は長く、多くの横脈が並び、後縁の爪状(そうじょう)部は長く大きい。頭部は幅広く、前胸背とほぼ等幅。後脚跗節(ふせつ)第1、第2節は短小で棘(とげ)を欠き、転節は下向きとなる。成虫、幼虫とも植物体上に生活し、幼虫は尾端に糸状の白いろう物質を分泌するものが多い。熱帯地方に多く、とくにアフリカや東南アジアに繁栄し、世界で約300種が知られる。日本産のおもな種類は次のとおり。

 ベッコウハゴロモOrosanga japonicusは茶褐色で、前翅には2本の透明な横帯をもつ。クズ、クワなどに多く、ときに群生する。卵越冬で、幼虫は白色のろう物質に覆われ、尾端にはろう質の糸の束があり、落下時にこれがパラシュートの役目をする。7月ごろから羽化が始まる。ヒメベッコウハゴロモRicania taeniataはやや小形で、イネやサトウキビなどに多く、ときには害を与える。スケバハゴロモEuricania fascialisは、前翅の透明部が広く、脈も少ない。クワのほか種々の樹木に群生する。アミガサハゴロモPochazia albomaculataは、前翅が黒褐色で、前縁に1白斑(はくはん)をもつ。カシ類のほかいろいろな植物上にみられる。

[林 正美]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハゴロモ」の意味・わかりやすい解説

ハゴロモ
Ricaniidae

半翅目同翅亜目ハゴロモ科に属する昆虫の総称。体長 (翅端まで) 10mm内外の種が多い。体形はややセミに似て頭部が幅広く,前胸背よりわずかに狭い。前翅は三角形で広く,多数の翅脈があり,後縁には長い爪状部があり,種特有の色彩,斑紋をもつ。後翅は小さく,淡色。止るときは前翅を屋根状にたたむ。幼虫は植物に付着し,腹端から長い白ろう糸を分泌する。熱帯地方に種類が多い。本科に属するベッコウハゴロモ Orosanga japonicusは体長 (翅端まで) 10mm内外,前翅は褐色で2本の半透明な白色帯がある。各種の植物に寄生し,クワなどの害虫となることもある。本州以南,台湾まで分布する。 (→同翅類 , 半翅類 )

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