ハゼ(読み)はぜ(英語表記)sleeper

翻訳|sleeper

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハゼ」の意味・わかりやすい解説

ハゼ
はぜ / 沙魚

sleeper
goby

硬骨魚綱スズキ目ハゼ亜目Gobioideiに属する魚類の総称。近年、世界各地からハゼの新種の報告が相次ぎ、現在1500種余りに達するといわれている。ハゼ類は、魚類のなかでももっとも種類が多いグループの一つであり、多岐にわたる形態・生態の分化は、ハゼ類が、現在、進化の頂点にあることを示すものといわれる。

 南・北両極地域を除いて、世界の広範囲に分布し、各地域で固有のハゼ相を示しているが、インド洋から太平洋熱帯域にかけてとくに種類が多い。なお、ハゼ科のマハゼは一般にハゼとよばれることが多い。

[道津喜衛]

形態・生態

標高1000メートルを超える河川の上流域から河口部、潮間帯を経て水深100メートル以上の沿岸域までの各所に生息する。水底を匍匐(ほふく)する底生生活、ないしは下層部での浮遊生活を送る定住性であり、底質環境と関連が深い多様な習性を示す。このように多様な生態は次の八つの生態型に分けられる。(1)亜寒帯型 たとえばブエニア属、(2)亜外洋型 シロウオ、(3)深所型 コモチジャコ、(4)掘孔(くっこう)型 ワラスボ、(5)亜陸生型 トビハゼ、(6)急流型 ボウズハゼ、(7)洞窟(どうくつ)型 イドミミズハゼ、(8)共生型 ダテハゼ。

 このような生態と関連して、形態も種類によって多様な分化を遂げ、体形には基本型のほか、縦扁(へん)、側扁、延長の各型がみられる。魚体も体長60センチメートルに達する最大のオキシエレオトリス・マルモラタOxyeleotris marmorataから、最小で体長10ミリメートルほどのパンダカ・ピグマエアPandaka pygmaeaまであり、幅が広いが、一般に小形で、成魚の体長が15センチメートル以下の種類が大多数である。

 一般的な形態の特徴としては、体はずんぐりしており、鱗(うろこ)で覆われている。目は頭上部に並ぶ。前後二つの背びれがある。腹びれは胸位にあり、左右が合して杯状をなすクモハゼ型gobyが多いが、左右が離れているカワアナゴ型sleeperもある。側線はなく、うきぶくろを備えている。体色はじみな黒褐色である。

 水底にそれぞれの種類特有の産卵巣を設け、その中に非球形の付着卵の塊を産み付け、雄親魚がそれを守る。仔魚(しぎょ)期には群泳生活を送り、稚魚・若魚に成長したのちに、単独で底生の定住生活へ入る。食性は小動物を主とした雑食で、貪食(どんしょく)である。一方、沿岸域では大形の魚食性魚の餌料(じりょう)となっており、食物連鎖の一環となっている。1、2年で成熟し、寿命は1年ないし数年である。生理的には広温、広塩、耐乾の性質を獲得している。

[道津喜衛]

日本のハゼ

日本列島からはハゼ科、スナハゼ科、ツバサハゼ科の3科に属する約150種が知られている。このなかには、琵琶(びわ)湖特産のイサザ、ミミハゼ属のハゼのように日本列島水域で分化を遂げたと思われる種類があるが、多くは東南アジアの亜熱帯・熱帯域のハゼと類縁が深く、同じ属に入る。日本南部ほど種類が多く、琉球(りゅうきゅう)諸島ではサンゴ礁特有の種類を含み、とくに種類が豊富である。有明(ありあけ)海にはハゼ類を多産し、ハゼクチ、ワラスボなどの特産種を含んで特異なハゼ相を示している。

 ハゼ類は河川や沿岸の身近な所にすみ、なじみの深い魚類であり、愛称ともいうべき地方の方言が多い。しかし、まとまってとれる種類が少ないので、マハゼ、ハゼクチ、イサザ、シロウオ、ムツゴロウなどの少数種を除いては食用にされることがない。なお、ハゼ類はその生活の場所が人間の活動の場所に近いために、近年、埋立て、干拓などの地域開発によって、小形で移動性に乏しいハゼ類がその影響を受けている例が多い。

[道津喜衛]

釣り

ハゼ(マハゼ)釣り暦は、古くから、秋の彼岸(ひがん)からといわれている。これは江戸前の船釣りの古い慣習で、いまでは初夏に陸釣りから始まる。8月になると、昼から納涼を兼ねた乗合船が始まる。それでも本格的なハゼ乗合船が開幕するのは9月も中旬過ぎである。

 陸釣りは2メートル級ハゼ船竿(ざお)か2.7メートルから3メートル級マブナ・ヘラブナ竿でウキをつけないミャク釣り。小さい玉ウキ4、5個をつけたシモリウキやトウガラシウキのウキ釣りでも楽しめる。ウキ釣りは、餌(えさ)が底すれすれになるようにウキ下の長さを調節する。

 船釣りは9月中旬から10月初旬が初期、10月中旬から11月中旬が中期、11月下旬から翌年1月初旬が深場釣りの終期とされている。

 その年のハゼの繁殖によって、前半不調で終期近くに良形がけっこう釣れることもあって、毎年の見通しはむずかしい。初期はハゼの形も小さいから浅場をねらう。2~3メートル竿でオモリ1.5~3号をつけ、竿先がすなおに垂れ下がる軟調子がよい。鉤(はり)は袖(そで)型4~5号が標準。活発に餌を食べる反面、すばやく餌を吐き出して逃げる。そこで、オモリと竿先のバランスがよくとれた竿で釣るのが釣果を左右する。

 中期から深場へと移るにつれてハゼの形もよくなり、水深も深くなる。鉤も大きめ、ハリスの長さも釣れるハゼの体長にあわせて長めにする。ゴカイ餌は初期は2センチメートルほどに短めにし、深くなるにつれて長めにする。

[松田年雄]

料理

肉は淡泊で特有のうま味がある。卵をもったものは子持ちハゼとよび、とくに喜ばれる。身が小さいので細作りの刺身や、身を開いててんぷらにする。姿のままではから揚げ南蛮漬け、白焼きにして甘露煮や佃煮(つくだに)にする。焼き干しにしたものは、だしの材料となる。

[河野友美]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハゼ」の意味・わかりやすい解説

ハゼ (沙魚)
goby

スズキ目ハゼ科Gobiidaeに属する魚類の総称。世界で確認されている種類は約700種に達するといわれ,魚類の中で,一つの大きな系統群を形成している。おもに,熱帯から温帯域にかけて分布し,とくに東南アジア地域に多く見られる。日本国内でも約150種が生息する。その種数の大きなことから,その形態,生態ともに多岐にわたる。

 生息域についても,一生を淡水域だけにすむもの(ドンコ,カワヨシノボリ),成長するに従って淡水域と海水域を往来するもの(ヨシノボリウキゴリ),河口近くの汽水域にすむもの(マハゼ,シロウオ),沖合の比較的深いところにすむもの(リュウグウハゼ,ヤミハゼ)などがある。

 生活形態も,砂泥底上にすむもの(マハゼ),岩礁域にすむもの(キヌバリ,イソハゼ,クモハゼ),浮遊生活を送るもの(シロウオ,チャガラ),海底に穴を掘ってその中で生活するもの(ワラスボ),干潟の上を徘徊する水陸両生生活をするもの(トビハゼムツゴロウ),淡水の地下水域にすむもの(ドウケツミミズハゼ)などがある。

 形態も腹びれの左右が合一して吸盤状となるものと,左右別々のものとに大きく分けられる。体型も,ふつうのマハゼのような形をしたものから,細長い形をしたワラスボ,ヒモハゼ,上下に扁平な頭をしたドンコなどがある。体色も茶色系統がほとんどであるが,白く透きとおったシロウオ,黄色のキギクハゼ,鮮やかな縞模様のチャガラ,キヌバリ,ニシキハゼなどがいる。体長も最大のものは45cmに達する有明海産のハゼクチ,淡水域では沖縄産のタメトモハゼ(35cm)があり,最小のものは15mmで成魚となる南方の沿岸域に生息するゴマハゼがある。種類によって大小はあるが,ふつう成魚でも10cm以下のものが多い。

 ハゼの卵は,その全部が沈性付着卵である。卵の一端から付着糸を出し,岩や木片などの下面や,地中の産卵室の壁面に産みつけられる。形は,産卵直後には球形をなしているが,しばらくすると吸水し,ナス形,ヨウナシ形などのさまざまな長・短楕円形になる。発生中は親が卵を保護する習性をもつものが多い。孵化(ふか)した後は浮遊期を送る。河川の上流や湖沼に産卵されたものは,この浮遊期に淡水域にとどまるもの(カワアナゴ)と海にまで下り,再び河川の上流にさかのぼるもの(ヨシノボリ,ウキゴリ,ボウズハゼ)がある。海で産卵されるものは,しだいにうきぶくろが消失するとともに,それぞれの生息域に落ち着いていく。

 一般に貪食(どんしよく)で,甲殻類,ゴカイ類,貝類などの小動物や,藻類などをおもな餌としているが,多くは雑食性の習性をそなえている。マハゼなどは,釣針につけた米飯粒にさえも食いつくほどである。東京近辺ではアゴハゼ,ドロメチチブなどを区別せずにダボハゼと俗称する。なお,アナハゼはハゼの名がついているが,カサゴ目でハゼの仲間とは縁遠い。

 ハゼ類の多くは,つくだ煮,あめだきなどの材料とされ,シロウオ,ムツゴロウなどは地方の名物にもなっている。

 人々に,もっともなじみの深いハゼとしては,釣りの好対象としてよく知られているマハゼAcanthogobius flavimanusがあげられる。マハゼは,広く日本の各地の内湾,河口域の砂泥底に生息し,夏のころには,幼魚が川の下流域の波打ちぎわや浅瀬に群れているのがよく見かけられる。

 体はやや円筒形で,尾部にかけて側扁する。体色は淡黄褐色で,体側にやや不明りょうな5個の暗褐色斑紋が認められる。腹びれは左右合一して吸盤状のようになり,堤防や岩の垂直な面に静止している姿が見られる。幼魚のうちは浅瀬などに群れているが,秋になり水温が下がるにつれ,しだいに深所へと移動していく。

 生後満1年で成熟し,産卵後は死ぬものが多いが,なかには2~3年生き残るものがあり,越年ハゼと呼ばれる。産卵期は2~5月で,砂泥底に二つの入口をもったY字形の産卵のための穴を掘る。産卵成魚の大きさにより異なるが,入口間の距離は20~80cm,合流部は表面下15~35cm下にあり,そこからさらに下に中央のくぼみをつくる。入口は狭いが,内部の穴の直径は5cmほどある。雌雄1対が産卵室内に潜み,十分成熟するのを待って中央のくぼみに産卵する。卵は付着卵で,長径約5mm,短径約1mmのナス形の卵を約6000~3万粒ほど産みつける。水温約13℃で約28日ほどで孵化する。孵化仔魚(しぎよ),稚魚はうきぶくろが白く半透明の体の外から顕著に認められ,このころには中層を遊泳している。浮遊性の橈脚(じようきやく)類(コペポーダ)をおもな餌としている。体長15~20mmのころに底生生活に移行する。このころには,ひれなども備わり各形質も成魚にほぼ等しくなる。底生生活に移ってからは,小型の甲殻類やゴカイなどの多毛類,たまにアサクサノリ,アオノリなどの藻類を食べることもあり,雑食性が強い。体長は30cm以上になるものもある。てんぷら,甘露煮などにされ,卵巣は塩干にもする。東京湾でのハゼ釣りは初秋の風物詩にもなっている。
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栄養・生化学辞典 「ハゼ」の解説

ハゼ

 マハゼ(yellowfin gobby, common blackish goby, genuine goby, spiny goby)[Acanthogobius flavimanus],ハゼグチ(jevelin goby)[A. hasta]など.スズキ目ハゼ科の魚で,海水,気水,淡水領域に生息する.食用にする.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハゼ」の意味・わかりやすい解説

ハゼ

ハゼ類」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のハゼの言及

【生物群集】より

…藻のほうは安全なすみかを得ているし,動物のほうは藻の作用を借りて骨格をつくり上げ,その成長は著しく速くなっている。また,暖海沿岸の砂泥底にはテッポウエビ類とハゼ類がさまざまな組合せで,エビのつくった穴の中に共にすんでいて,ハゼが先に外敵を見つけて共に穴に隠れる。こういう例は広く協同cooperationと呼ばれ,とくに生理的な結びつきの大きいときは共生symbiosisの語の用いられることが多い。…

※「ハゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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