ハチ咬傷

内科学 第10版 「ハチ咬傷」の解説

ハチ咬傷(有毒動物による咬刺傷(毒蛇、ハチ))

(2)ハチ刺傷
概念・疫学
 昆虫による刺症のなかでは,ハチ刺傷は比較的多く医療機関を受診する傷病で,局所疼痛,腫脹とともに,全身性のアナフィラキシーを引き起こし,毎年30人前後が死亡している.ハチの種類によって毒成分は若干異なるが,毒作用としてはスズメバチが一番強く,ついで,アシナガバチ,ミツバチの順になる.
病態
 ハチ毒には,ヒスタミンセロトニンカテコールアミンなどのアミン類,低分子ペプチド,酵素類(ホスホリパーゼA2,ヒアルロニダーゼ,プロテアーゼなど)が含まれている.アミン類によって,局所の疼痛,腫脹が生じ,スズメバチやアシナガバチの毒にはセロトニンが多く含まれているため,痛みが強い.また,ハチ毒に含まれる酵素類は抗原として作用して,ハチ毒に対する特異的IgE抗体を産生するようになり,その後のハチ刺傷で,Ⅰ型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)を呈する.これによって全身症状としてのアナフィラキシー反応が数分から30分以内に生じ,致命的となることがある.また,初回の刺傷でも,多数のハチに刺された場合などでは,全身症状を呈する場合があり,ハチ毒のヒスタミンなどの直接作用による,IgEを介さないアナフィラキシー様反応と考えられる.
臨床症状
 刺傷部の局所症状としては,疼痛,発赤,腫脹が認められる.全身症状は,アナフィラキシー反応によるもので,皮膚症状(じんま疹,発赤,紅斑),消化器症状(腹痛,悪心,嘔吐,腸蠕動亢進,下痢),呼吸器症状(喉頭浮腫,喘鳴,咳,呼吸困難,頻呼吸,SpO2低下),循環器症状(血圧低下,頻脈,冷汗,顔面蒼白,不整脈),その他(頭痛,胸痛)などで,さらに進行すると,意識障害,チアノーゼの出現,心肺停止状態となる.
治療
 局所症状に対しては,まず針の皮膚への残存を確認して,残存しているときは,毒囊をつままないようにして,人差指ではじくようにして除去する.そのうえでステロイド薬や抗ヒスタミン薬の軟膏を塗布する.全身症状が出現している場合は,直ちに心電図およびSpO2モニター,血圧計を装着し,高濃度酸素の投与生食や乳酸リンゲル液など細胞外液補充液を急速に点滴する.呼吸器症状や循環器症状が出現している場合には,アドレナリン0.3~0.5 mgを大腿部に筋注する.症状の改善が認められないときには,5~20分ごとに再度筋注を行う.アナフィラキシーが重篤で生命の危険が切迫しているときには,アドレナリン1 mgを500 mLの生食に溶解し,その50 mLを5分かけてゆっくりと静脈内投与する.アドレナリンを静脈内投与する場合には,慎重なモニタリングが重要である.静脈路の確保に手間取る場合には,アドレナリンの筋注を優先する.続いて,抗ヒスタミン薬:H1受容体拮抗薬(クロルフェニラミンマレイン酸塩,5 mg),副腎皮質ステロイド薬(ヒドロコルチゾン100 mg,メチルプレドニゾロン40mg)の投与を考慮する.H2受容体拮抗薬の併用も効果的とされている.喉頭浮腫が認められれば,早期の気管挿管が必要であり,挿管困難な症例で緊急性があれば,甲状輪状靱帯切開の可能性もある.
 医療機関へ来る前のアナフィラキシー反応に対する自己注射キットとして,エピペンがある.ハチ刺傷に関しては,主として林業従事者や養蜂業者など,ハチ刺傷によるアナフィラキシーのリスクの高い人に対して処方され,刺された場合の自己注射の方法が教育されている.エピペンには,アドレナリン0.3 mgと0.15 mgの製剤があり,成人に対しては0.3 mgが使用される.[岩崎泰昌]
■文献
岩崎泰昌,大谷美奈子:自然毒.中毒学—基礎・臨床・社会医学—(荒木俊一編),pp176-181,朝倉書店,東京,2002.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),pp498-506,医学書院,東京,2009.堺 淳:ヘビ.中毒症のすべて(黒川 顕編),pp252-257,永井書店,東京,2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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