ハナバエ(読み)はなばえ(英語表記)anthomyiid flies

改訂新版 世界大百科事典 「ハナバエ」の意味・わかりやすい解説

ハナバエ (花蠅)

双翅目ハナバエ科Anthomyiidaeの昆虫総称イエバエ科に近縁。世界に広く分布するが,北半球の冷涼な地域からよく知られる。低緯度地方では山岳地に多く,熱帯や亜熱帯低地ではとくに少ない。世界から1000種以上知られ,日本からは190種ほどが知られる。多くは早春~初夏に出現し,盛夏以降は少ない。花を訪れるものも多い。家屋内では見られない。体長3~11mm,多くは4~8mm,体型はやや細長く,太短い種類は少ない。体は淡灰色,黄褐色あるいは暗褐色の微粉で覆われるが,その地色黒色ないし黒褐色,脚や腹部など部分的に黄色のこともある。成虫は花粉や花みつ,動物の糞,腐敗動植物などさまざまな有機物を栄養源とするが,一部のものは口吻こうふん)が非常に硬化しており,弱小な昆虫類をとらえその体液を吸収する。幼虫期に草本類の茎葉や花托(かたく)に潜り食害する種類が多い。したがって林床植物の豊富な明るい樹林,林縁部,河畔,山岳地の渓流沿いやお花畑などは好適な生息場所である。

 タカネチビハナバエChiastocheta trolliiは北海道の山岳地から知られ,高山植物のシナノキンバイの花上でふつうに見られるが,このハエはヨーロッパではキンバイソウ属の花に産卵し,幼虫はその花托を食べて育つことが知られている。ハナバエ類の幼虫にはこのほかキノコを食べるもの,針葉樹の球果を食害するもの,シダ植物の葉に潜り食害するもの,動物の糞を食するもの,ギングチバチが朽木中の巣に狩り集めたハエ類を食べて育つと思われるもの,地中営巣性のハナバチがその子のために蓄えた花粉やみつを横取りするものなどが知られている。農林業上の害虫としてはタネバエタマネギバエ,ダイコンバエ,テンサイモグリハナバエ,カラマツタネバエなどがある。とくにタネバエDelia platuraは世界に広く分布する著名な農業害虫で,日本でも各地にきわめてふつう。幼虫は土壌中でマメ類などの農作物やさまざまな植物の種子や稚苗を食害し,家庭菜園でもしばしば思わぬ被害を受ける。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハナバエ」の意味・わかりやすい解説

ハナバエ
はなばえ / 花蠅
anthomyiid flies

昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目ハエ群のハナバエ科Anthomyiidaeの総称。この科は小形から中形、体の地色は主として黒色で、灰褐色ないし黄褐色の微粉を装うものが多い。体はやや細形で、動作は活発である。はねは透明で、斑紋(はんもん)は不明瞭(ふめいりょう)で、中脈は単純で屈曲しない。幼虫は腐食性のものが多いが、潜葉性のものもある。

 代表種のヒメイエバエFannia canicularisは、体長5~6ミリメートル、翅長4.5ミリメートル。体は黒っぽいが、雄の腹部第2~第3節には黄褐色の斑紋がある。人家の内外に多い。幼虫は扁平(へんぺい)なウジで、体長は7ミリメートルに達し、褐色で、背面には多くの棘(きょく)状の突起がある。水分の少ない腐敗物のほか、漬物の糠(ぬか)にも発生する。アカザモグリハナバエspinach leafminer/Pegomyia hyoscyamiは、体長5.5~6ミリメートル、翅長6~6.5ミリメートル。体は灰黄褐色粉で覆われ、胸部背面には不明瞭ながら雄では3本の、雌では1本の暗褐色縦条が認められる。腹部背線は暗色で太い。幼虫はアカザ、ホウレンソウの葉潜りで、数頭で大きな共同の孔道をつくる。

[伊藤修四郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハナバエ」の意味・わかりやすい解説

ハナバエ
Anthomyiidae; anthomyiid fly

双翅目ハナバエ科に属する昆虫の総称。小型ないし中型のハエで体は比較的細く,剛毛があり,体色は多くは黒色,灰色または暗黄褐色である。イエバエに似るが,翅の中脈がほとんど湾曲せず,小楯板 (しょうじゅんばん) 下方に微毛が生える。活発なハエで動物の死体に集るものが多い。幼虫は蛆形で植物質を食べ,葉穿孔性のものもある。

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