ハミルトン(Sir William Rowan Hamilton)(読み)はみるとん(英語表記)Sir William Rowan Hamilton

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ハミルトン(Sir William Rowan Hamilton)
はみるとん
Sir William Rowan Hamilton
(1805―1865)

イギリスの数学者、理論物理学者。幼時から天才をうたわれ、伯父の外国語教育を受けて13歳のときにすでに十数か国語に熟達していたといわれる。「計算少年」との競争を行ったことが契機となって数学に興味を抱き、ニュートン、ラグランジュ、ラプラスらの著作を読み、大学に入学する以前に当時の数学をほとんどマスターし、また光学系に関する理論のアイデアに到達した。1824年ダブリン大学のトリニティ・カレッジに入学、1827年には、まだ在学中の22歳の若さながらカレッジの天文学教授に選ばれ、ダンシンク天文台の台長を兼任した。

 1828年、最初の論文『光線系の理論』Theory of Systems of Raysの第一部を公刊したが、これはいわゆるハミルトン特性関数の導入により光学系に対する一般的な代数的理論を建設したもので、幾何光学の基礎理論となるとともに、後年力学理論の発端ともなった。ついで1832年に双軸結晶体の円錐(えんすい)屈折を予言し、これはロイドHumphry Lloyd(1800―1881)によりただちに実験的に証明された。このころから光学に導入した原理を力学の全分野に拡張する試みに着手し、特性関数を用いて光の伝播(でんぱ)と質点の運動を統一し、1834年変分原理としていわゆる「ハミルトンの原理」を提出、さらに「ハミルトンの正準運動方程式」をたてて力学を書き替え、解析力学の基礎を確立した。

 一方、「四元数」の着想を得て、この理論の展開に努力し、理論物理学すべてを包括する有用性を期待して晩年の20年近い歳月を費やしたが、大きな成果は得られなかった。しかし彼の研究した線に沿って多様な代数系への道が開かれ、多元数の理論などその後の代数学やその物理学の応用に大きな影響を与えた。この分野の著作に『四元法講義』Lectures on Quaternions(1853)、『四元法原理』The Elements of Quaternions(1866)がある。詩を愛し、当時の詩人らと多く交わった。

[藤村 淳]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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