日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ハリス(Wilson Harris)
はりす
Wilson Harris
(1921―2018)
ガイアナの小説家、詩人、文明評論家。多人種混血の家系に生まれ、ジョージタウンのクイーンズ・カレッジでラテン語とギリシア語を学んだ。1938年卒業後、土地測量士となり密林の奥地で測量に従事し、この体験が小説の背景になった。1959年以降イギリスに定住し、創作に専念する一方、オーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカ、キューバの各大学と西インド大学で教えた。『ガイアナ四部作』として1985年に発売された1960年代の小説、すなわち代表作『孔雀(くじゃく)の宮殿』(1960)、『オーディンのはるかなる旅』(1961)、『完全武装』(1962)、『秘密の会談』(1963)で、現実と神話の世界を重ね合わせながら、現代世界における「死と創生」の原初的パターンを探っている。1970年以降は『ロライマの眠れる男』(1970)、『雨ごい呪術(じゅじゅつ)師』(1971)で、カリブやアラワクの神話や伝説を短編化する仕事に意欲的に取り組んだ。1980年代には三部作『カーニバル』(1985)、『限りないリハーサル』(1987)、『宇宙河の四つの土手』(1990)で、それぞれダンテの『神曲』、ゲーテの『ファウスト』、ユリシーズを下敷きにしながら、クレオール文化とヨーロッパ文化との統合の可能性を探っている。ほかに、小説『悲しみの丘での復活』(1993)、『ジョーンズタウン』(1996)、ブッシュ(森林)の孤独を歌った詩集『泉と大地』(1952)、『季節よ永遠であれ』(1954)、評論集『宇宙の子宮』(1983)と『過激な想像力』(1992)がある。
[土屋 哲 2018年3月19日]