ハルシュタット文化(読み)ハルシュタットぶんか

精選版 日本国語大辞典 「ハルシュタット文化」の意味・読み・例文・類語

ハルシュタット‐ぶんか ‥ブンクヮ【ハルシュタット文化】

〘名〙 (ハルシュタットHallstatt) ヨーロッパにおける鉄器時代初期の文化。オーストリアのハルシュタット墓地遺跡標式とする。紀元前一〇〇〇~前五〇〇年。初期に青銅器が多く用いられたのに対し、末期には鉄器が普及し、鉄剣・甲冑・槍・馬具等が顕著。

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改訂新版 世界大百科事典 「ハルシュタット文化」の意味・わかりやすい解説

ハルシュタット文化 (ハルシュタットぶんか)

ローマに先立つヨーロッパの初期鉄器時代前半はハルシュタットHallstatt時代,後半はラ・テーヌ時代(ラ・テーヌ文化)と呼ばれる。ただし,オーストリアのザルツブルク東南東約50kmの湖岸にある,採岩塩・墓地遺跡の名にちなむハルシュタット文化は,A~D期に分けられ,ハルシュタット時代・文化はこのうちC・D期の時代・文化であり,A・B期は青銅器時代に属する。西はフランス東部から東はカルパチ盆地に至る火葬骨壺墓地(アーンフィールドurnfield,ウルネンフェルトUrnenfeld(ドイツ語))文化の人びとが,ギリシアエトルリアなどの先進文化や乗馬の風習を積極的に採り入れて成立した。ハルシュタット文化の担い手は,西半部はケルト人,東半部はイリュリア人といわれる。長さ90cmに達する鉄剣など鉄器を使い始めているが,甲冑,盾,武器,装身具容器にはなお青銅器の使用が盛んである。社会に階層を生じており,長方形竪穴住居から成る一般集落のほか,堅固な城壁を設けた首長の居館がある。首長たちは前代とは違って火葬されず,墳丘下の木造家形墓室内に四輪車,馬具,武器,容器などとともに葬られている。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ハルシュタット文化」の解説

ハルシュタット文化(ハルシュタットぶんか)
Hallstatt

西部オーストリアを中心とする鉄器時代初期の文化。同名の遺跡はザルツブルク付近にあり,約2000の墓を発見。A期(前1000~前800年),B期(前800~前700年),C期(前700~前600年),D期(前600~前500年)に分けられ,後半のC~D期が典型的鉄器時代である。長剣,矛(ほこ),闘斧(とうふ),ナイフ,留め針,ピン,バケツ,高坏(たかつき),鍋,動物形飾り金具,甲冑(かっちゅう),耳輪,頸(くび)飾り,腕飾り,馬具,人面,家形土器,骨壺などが初期から末期にかけてみられる遺物概観である。そのうち,意匠のあるものは,ルリスタンおよびカフカース地方のものと関係深い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハルシュタット文化」の意味・わかりやすい解説

ハルシュタット文化
ハルシュタットぶんか
Hallstatt culture

ヨーロッパ中部の初期鉄器時代の文化。前 1100/前 1000年頃から前 800/前 700年頃までの前期とこれに続く前 450年頃までの後期とに分けられる。オーストリアのハルシュタットで 1846~99年に約 2000の墓地が発掘され,装身具や武具,馬具,什器などの工芸品が出土し,チェコ,スロバキア,オーストリア,ドイツ南西部に展開されたこの時期の鉄器の特殊性が認められ,同地の名称で呼ばれるようになった。後期のものはフランス,北欧でもみられる。渦文,鋸歯文 (きょしもん) などの幾何学文様が多く,左右対称形で鳥や対になった人物像などもみられる。ギリシア・ローマ文化とも連絡がみられ,ラ・テーヌ文化に取って代わられた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハルシュタット文化」の意味・わかりやすい解説

ハルシュタット文化
はるしゅたっとぶんか
Hallstatt

ヨーロッパに広くみられる青銅器時代から鉄器時代にかけての文化。名前の由来は、オーストリアのザルツブルク東南東にある同名の湖の湖岸に遺跡があることによる。この遺跡は18世紀以来知られており、調査もしばしばなされ、2500にも及ぶ墓が発見されている。ほかの遺跡でも墓は多く発見されているが、住居址(し)の発見は比較的少ない。土着のウルネンフェルト文化から受け継いでいるものが多いが、ギリシア文化からの影響も色濃くみられる。墓には青銅製品、鉄製品などの金属製品が多く埋められている。またウマの利用を物語る馬具、戦車の副葬もみられる。ケルト人と結び付けられることが多い。この時期の砦(とりで)のなかにはカエサルの『ガリア戦記』に登場するものもある。

[藤本 強]

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百科事典マイペディア 「ハルシュタット文化」の意味・わかりやすい解説

ハルシュタット文化【ハルシュタットぶんか】

ヨーロッパのフランス東部からハンガリー西部にかけて,前1000年―前500年ごろに栄えた初期鉄器時代文化。オーストリアのハルシュタットHallstatt湖畔の墳墓群を標準遺跡とする。4期に分けられるが,鉄器の使用が一般化したのは後半の2期。ケルト系の民族の文化と考えられ,騎馬民族的要素をもっている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ハルシュタット文化」の解説

ハルシュタット文化
ハルシュタットぶんか
Hallstatt

オーストリア北部の鉄器時代の遺跡の名にちなむ文化
1846年以来,千数百の墓が発堀され,鉄製の剣・斧・装身具・容器が出土した。前期(前900〜前700)は火葬・青銅器が主で,後期(前700〜前400 (ごろ) )には土葬で鉄器が一般化し,彩色および磨研土器が現れた。

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世界大百科事典(旧版)内のハルシュタット文化の言及

【インド演劇】より

…詩聖カーリダーサ(4~5世紀)は傑作《シャクンタラー》劇によってインド劇の真価を世界に知らしめたが,彼はほかに2編の戯曲を残している。中インド曲女城(カナウジ)の戒日王として知られたハルシャ・バルダナ(在位606‐647)は,仏教劇《ナーガーナンダNāgānanda(竜王の喜び)》ほか2編の戯曲を残した。劇作家としてカーリダーサと並び称せられるのは,《マーラティーマーダバMālatīmādhava》ほか2編の作者ババブーティ(8世紀)である。…

※「ハルシュタット文化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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