日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ハート(Francis Bret〔t〕 Harte)
はーと
Francis Bret〔t〕 Harte
(1836―1902)
アメリカの作家。ニューヨーク州オルバニーの生まれ。父親の死後カリフォルニアに移住し、さまざまな職業を体験したのち、ジャーナリズム界に入り、1868年雑誌『オーバーランド・マンスリー』の創刊に加わり、彼自身も短編『ロアリング・キャンプの福の神』(1868)を発表して圧倒的な人気を博した。続いて『ポーカー・フラットの追放者』(1869)、『テネシーの相棒』(1869)などを矢つぎばやに世に出して、一躍時代の寵児(ちょうじ)となった。ついで東部のニューヨークに出て、同じような作品を発表し続けたが、過去の栄光はついに戻らず、筆を折るようにしてヨーロッパの各領事館に勤めたのち、ロンドンで客死。彼の作品では初期の短編がもつ、社会からのけ者にされた賭博(とばく)師や荒くれ者たちの、怨念(おんねん)を超えた人間的な強さ優しさがみなぎる作品が最上であり、擬古的な文体ではあるが、地方色文学の先駆けとして名高い。
[亀山照夫]