フィリピンで男性が正装として用いる上着。バロン・ピリピノまたは略してバロンとも呼ばれる。パイナップルの繊維を材料とした長袖シャツで,両サイドにスリットが入り,前面に刺繡が施されている。スペイン領時代にメキシコから移入されたといわれる。1960年代以前はかぶり型で胴回りのゆるやかなものが一般的だったが,70年代に入ってから前開式で胴の引き締まった型が流行した。後者はマルコス大統領が好んで身につけたので,マルコス・タイプとも呼ばれる。女性の正装はテルノterno(ないしテルナterna)という裾の長いワンピース・ドレスで,パイナップルの繊維で作ったクリーム色の布地に細かい刺繡がたくさん施されている。バタフライ・スリーブ(〈チョウの羽〉の意)と呼ばれる釣鐘袖が特徴で,かつては上層階級の間でのみ用いられたが,今日では村の祭りに欠かせない衣装となっている。
執筆者:宮本 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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