パウエル(Jerome H. Powell)(読み)ぱうえる(英語表記)Jerome H. Powell

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

パウエル(Jerome H. Powell)
ぱうえる
Jerome H. Powell
(1953― )

第16代アメリカ連邦準備制度理事会(FRB議長。弁護士、銀行家、財務官僚などを経て、ジャネット・イエレン後任として、2018年2月にFRB議長についた(2022年再任)。経済学の博士号をもたない者がFRB議長を務めるのは、第11代のウィリアム・ミラーGeorge William Miller(1925―2006)以来40年ぶりである。

 ワシントンDC生まれ。1975年にプリンストン大学政治学部を卒業し、1979年にジョージタウン大学で法務博士号(J.D.)を取得。弁護士を務めた後、投資銀行の役員、投資ファンドの共同経営者を務めるなどウォール街での経験が長い。1990年から財務省に転じ、1993年までジョージ・H・W・ブッシュ政権下で財務次官補(国内金融担当)や財務次官を歴任した。その後、シンクタンクの客員研究員としてリーマン・ショック後の政策研究に従事した。2012年5月にFRB理事に就任(2014年再任)し、金融危機後の量的金融緩和策を進めたバーナンキやその後の金融正常化(出口戦略)に取り組んだイエレンを支えた。トランプ政権下でFRB議長となり、金融正常化を進めたが、2020年から新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の流行に直面。急速に冷え込んだ経済を下支えするため、2020年3月、ゼロ金利政策と大規模な量的金融緩和政策を同時に断行し、アメリカ経済の急回復につなげた。アメリカ経済が約30年ぶりの物価高に直面すると、2021年11月から量的金融緩和の縮小テーパリング)を進め、2022年3月にはゼロ金利解除に踏み切るなど、インフレ抑制のための金融引締めを主導している。銀行規制(ボルカー・ル-ル)や気候変動対策に消極的なため、民主党左派からの評判は芳しくないが、新型コロナウイルス感染症流行時にとった金融政策や、物価高に機動的に対処した手腕を評価するアメリカ大統領バイデンが2021年にFRB議長再任を決め、2022年にアメリカ議会上院から承認された。

[矢野 武 2022年6月22日]

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