パテント・トロール(読み)ぱてんと・とろーる(英語表記)Patent troll

知恵蔵 「パテント・トロール」の解説

パテント・トロール

特許権侵害企業を訴え、賠償・和解金やライセンス料によって利益を得る個人や集団(主に米国企業)。パテントは「特許」、トロールは「怪物(北欧伝説で悪さをする怪物)」のこと。米国では、イノベーション促進や自由な経済活動を妨げる大きな脅威になっている。
特許社会の米国では、特許権が商品(知的財産)として自由に売買できるため、パテント・トロールは、まず、活用されていない特許権を市場から大量に買い集める。しかし、その特許を使った製品はつくらず、その特許を侵害している疑いのある他社を訴える。NPE(Non-Practicing Entity/特許不実施主体)ともいわれるように、特許を使った自社製品を開発していないため、他社の特許に抵触することがない。また、訴えた企業から反訴される恐れもない。Financial Times(2016年6月)によると、米国で過去5年間に売却された特許権の約3分の2をパテント・トロールが購入しているという。
1994年、米連邦裁判所がプログラムの特許を認める判決を出したことを契機特許訴訟が増加し、パテント・トロールの台頭を促したといわれる。とりわけ、ブラウザーの特許侵害でマイクロソフト社を訴えたEolas社が、2003年に5億2100万ドルの賠償金を勝ち取った裁判は、IT業界に大きな衝撃を与えた。示談決着はついたものの、手軽に賠償金を得られる〝ビジネス〟として顕在化し、10年代になると特許訴訟件数は飛躍的に増加した。
これに対して13年、米国政府は特許関連法を改正し、更に特許権の乱用を防止する新たな特許制度の構築に向けても議論を進めている。こうした状況を受け、パテント・トロール企業の株価は下がり、特許訴訟の件数も減少傾向にあるが、最近はスマートフォン向けアプリの開発者といった個人や中小企業にパテント・トロールの訴訟対象が広がっており、その存在感は増す一方とも伝えられる。

(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パテント・トロール」の意味・わかりやすい解説

パテント・トロール
ぱてんととろーる
patent troll

巨額の損害賠償金や高額のライセンス料を得ることを目的に、自ら開発などを行わず第三者から買い取った特許権を行使するPAE(patent assertion entity)の別名。一般に個人発明家や中小企業などから安価に特許権を買い集める。パテント・トロールはもともとNPE(non-practicing entity:特許不実施主体)の蔑称として使われていたが、NPEを研究開発と技術の移転を目的とする大学など善意のものに対して用いるようになり、それと区別するためにPAEをパテント・トロールとするようになった。日本語では特許ゴロ、特許トロールともいう。

 アメリカ政府の発表によると、高収益を誇るハイテク企業をターゲットにしたパテント・トロールによる訴訟件数が急増し、2012年にはアメリカにおけるすべての特許訴訟のうち62%をパテント・トロールによる裁判が占めるようになっている。またパテント・トロールに敗訴した企業が2011年に負担した直接コストは訴訟外の対応を含めて290億ドルに上り、2005年比で400%増えているという。こうした事態を受け、グーグル社Googleなどのハイテク企業は、パテント・トロールがイノベーションを阻害していると主張し、パテント・トロールを取り締まるよう、多くのハイテク企業と共同でキャンペーンを張った。こうした経済界の声を受け、アメリカのオバマ大統領は2013年6月に訴訟を目的に特許権を買い集めている企業への規制を強化することを明らかにした。

[編集部]

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