パフォーマンス・ファンディング

大学事典 の解説

パフォーマンス・ファンディング

パフォーマンス・ファンディングとは,政府が大学に対して補助金を交付する際に業績評価(大学予算配分)に基づいて配分額を算定する手法である。業績評価と予算配分の連動アメリカ合衆国やイギリスなどのアングロサクソン諸国のみならず,現在,世界各国に広がっている。

 アメリカでは,公立大学に対する州政府交付金(state appropriations)の算出方法は対前年度のベースライン増減方式(base plus/minus approach)の州が多く,約7割を占めている(水田・吉田,2009)。また,あらかじめ設定された算定式を用いて交付額を算定するフォーミュラ方式(funding formula approach)も約3割の州で採用されており,フルタイム換算学生数や教員数などに基づいて算定が行われている。前者の方式は安定的な予算の確保の面で優れており,後者の方式は予算配分の透明性や公平性の確保という面で優れた手法であるが,これらの算定手法の問題点は大学教育の質を改善・向上させるインセンティブが働かないという点にある。

 そこで,業績評価を交付金の配分と連動させるパフォーマンス・ファンディングに注目が集まり,とくに学士課程教育における学習成果の向上や卒業率・就職率等の改善に向けて導入を行う州が増加している。アメリカ州政府による公立大学のパフォーマンス・ファンディングを調査したバーク(Joseph C. Burke)によれば,業績評価と予算配分の関係はパフォーマンス・バジェッティング(performance budgeting)とパフォーマンス・ファンディング(performance funding)の2種類に分類される。前者は評価結果を州政府交付金の予算編成において多くの要素の中の一つとして参考にするものであるが,後者は評価結果を交付金の配分額と直接的に連動させる手法である(Burke and Associates,2002)

[アメリカ合衆国におけるパフォーマンス・ファンディングの展開]

アメリカにおいて州政府交付金の算定にパフォーマンス・ファンディングが初めて導入されたのは,1979年のテネシー州においてである。同州では今日まで40年近くにわたって継続されており,パフォーマンス・ファンディングのモデル州として広く知られている。1980年代にはいくつかの州で導入されたが,州財政の悪化とともに廃止されるケースが多く,大きな注目を集めることはなかった。しかし,高等教育の質の向上を求める声が拡大し,公立大学に対するアカウンタビリティ要請が強まるにつれてパフォーマンス・ファンディングを導入する州が増加していくことになった。全米州議会協議会(National Conference of State Legislatures: NCSL)の調査では,2015年7月時点で32州で実施されており,5州が導入準備をしていると報告されている。

 業績評価基準(performance indicators)は,一般に①インプット基準(学生数,教職員数,授業料,奨学金,学生一人当たり支出,SATスコア等),②プロセス基準(教員授業負担,教員学生比,クラス規模等),③アウトプット基準(学生残留率・卒業率,学位授与数,教員論文数等),④アウトカム基準(標準テスト得点,資格試験合格率,就職状況,学生・卒業生満足度等)の四つに分類される。初期には標準テストの得点や就職率などの最終的なアウトカムが注目されていたが,近年は学生のコース修了状況(course completions)数学・英語といった必須科目の単位取得状況,年間の取得単位数といった学習プロセスにおける中間アウトカム(intermediate student outcomes)に注目する州が増加している(Dougherty & Reddy,2013)。なお,パフォーマンス・ファンディングによる配分額は州政府交付金収入の5%程度であり,基盤的な交付金に上乗せするボーナスの形で配分されることが多い。しかし近年は,基盤部分そのものに対してパフォーマンス・ファンディングが適用されるケースも増えている。

[国立大学法人運営費交付金とパフォーマンス・ファンディング]

2004年(平成16)に発足した国立大学法人制度においては,業績評価の結果を運営費交付金の配分に反映することについて,法人化の検討段階から議論されてきた。2002年の文部科学省国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議の最終報告書『新しい「国立大学法人」像について』では「運営費交付金には,競争的環境の醸成及び各大学の個性ある発展を促進する観点から,中期計画終了後の各大学に対する第三者評価の結果等を適切に反映させるものとし,その具体的方法や手続についてさらに検討する」と記され,評価結果を大学の資源配分に反映することが方向づけられた。

 第1期中期目標期間の業務実績は,教育研究等の質の向上3項目および業務運営・財務内容等の状況4項目について評価ポイント(業務実績)が算定され,ポイント数が一定以上の33法人に対して運営費交付金の「法人運営活性化支援分」計30億円が第2期中期目標期間を通じて分配された(国立大学法人法制研究会『国立大学法人法コンメンタール改訂版』ジアース教育新社,2017年)。さらに,第3期中期目標期間においては,各大学の機能強化の方向性に応じた取組みをきめ細かく支援するために,国立大学運営費交付金の中に三つの重点支援の枠組みが新設され,機能強化促進係数によってあらかじめ拠出された経費を各大学の評価に応じて再配分する仕組みが導入された。2016年度の予算は308億円であった。
著者: 吉田香奈

参考文献: Burke, J.C. and Associates, Funding Public Colleges and Universities for Performance: Popularity, Problems, and Prospects, New York: The Rockefeller Institute Press, 2002.

参考文献: Dougherty, K.J. and Reddy, V., Performance Funding for Higher Education: What Are the Mechanisms ? What Are the Impact ?: ASHE Higher Education Report, Vol. 39, Issue 2, Jossey-Bass, 2013.

参考文献: 水田健輔・吉田香奈「米国州政府予算における高等教育資源配分メカニズム―配分根拠・プロセス・影響要因の実態と日本に対する示唆」,国立大学財務・経営センター『大学財務経営研究』第6号,2009.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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