ヒシガニ(読み)ひしがに

改訂新版 世界大百科事典 「ヒシガニ」の意味・わかりやすい解説

ヒシガニ (菱蟹)
Platylambrus validus

十脚目ヒシガニ科の甲殻類雌雄とも長大なはさみ脚をもつカニで,甲幅5cmほど。甲の輪郭は名のようにひし形に近く,表面は多数の凹凸大小顆粒(かりゆう)で覆われている。胃域,心域,鰓域(さいいき)が隆起し,その間は深い溝になり,甲の前側縁には8本の突起が並んでいる。額は三角形。はさみ脚は長節の断面が四角形,掌部の断面が三角形の柱状で,他のカニ類と違って掌部が著しく長い。各節とも多数の大小の突起で覆われている。東京湾以南の太平洋オーストラリアまで分布し,水深30~100mの砂泥底や貝殻質の海底にすむ。肉食。夏に産卵する。浅海岩場にはツノダシヒシガニRhinolambrus contrariusが多く,イセエビ用の刺網によくかかる。額部が強く突出し,眼窩(がんか)の後方で深くくびれている。そのほか,サンゴ礁海域の浅海には甲幅10cm以上になるカルイシガニDaldorfia horridaが多い。はさみ脚と歩脚を縮めるとでこぼこでまさに軽石のように見える。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒシガニ」の意味・わかりやすい解説

ヒシガニ
Platylambrus validus

軟甲綱十脚目ヒシガニ科 Parthenopidae。甲幅 5cm内外。甲はほぼ菱形であるが,水生植物ヒシの実に似ていることが語源とされる。甲面は大小の顆粒で覆われ,正中線左右に深い縦溝が走る。雌雄とも鋏脚が甲幅の 4倍,ときにはそれ以上に達する。東京湾以南オーストラリアまで分布し,水深 30~100mの貝殻質の砂泥底に多い。凹凸が強い甲と色彩保護色あるいは擬態となっている可能性がある。ヒシガニ科は鋏脚の長い典型的な型のものからオウギガニ類(→オウギガニ)に近い形態のものまで多様で,インド西太平洋海域から約 200種が知られている(→甲殻類十脚類節足動物軟甲類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒシガニ」の意味・わかりやすい解説

ヒシガニ
ひしがに / 菱蟹
[学] Platylambrus varidus

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目ヒシガニ科に属するカニ。東京湾からオーストラリアまで分布し、水深20~100メートルの貝殻質の砂泥底にすむ。甲幅5センチメートルのほぼ菱(ひし)形で、胃域、心域、鰓域(さいいき)が深い溝で分けられ、大小のいぼ状顆粒(かりゅう)やくぼみで覆われている。甲の前側縁に8歯、後側縁に二つの突起がある。雌雄ともはさみ脚(あし)が異常に発達し、甲長の4倍以上の長さになる。長節は四角柱状、掌部は三角柱状で、各縁には大小の突起が並んでいる。浅海の岩場には額(がく)部が突出したツノダシヒシガニRhinolambrus longispinisが、サンゴ礁には軽石状のカルイシガニDaldorfia horridaが多く、イセエビ類の刺網によくかかる。

[武田正倫]


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百科事典マイペディア 「ヒシガニ」の意味・わかりやすい解説

ヒシガニ

甲殻類ヒシガニ科のカニ。甲長38mm,甲幅5cmくらい。甲は横に広い菱(ひし)形で,額は狭くとがり甲面には隆起と顆粒(かりゅう)が多い。はさみ脚も突起が多く,強大で長さは甲長の2倍以上。過剰発達の例とされる。歩脚は細くて小さい。灰褐色。東京湾以南の太平洋,インド洋,オーストラリアまで分布。水深30〜100mの海底にすむ。

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