日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ヒッポリトス(エウリピデスの悲劇)
ひっぽりとす
Hippolytos
古代ギリシアの悲劇作家エウリピデスの悲劇。紀元前428年春、アテネの大ディオニシア祭に上演され、一等賞を得た。
アテネ王テセウスの妻パイドラは、義理の息子ヒッポリトスに初めて会ったときから激しい恋心を抱く。初めそれは不倫の恋として秘匿されていたが、強いエロスの力に負けて露見、しかもその求愛はヒッポリトスの厳しい拒絶にあう。不倫の恋が夫に知られることを恐れたパイドラは、ヒッポリトスを讒言(ざんげん)する虚偽の遺書を残して自殺し、ヒッポリトスもこの遺書をみた父テセウスの怒りに触れて破滅させられる。
この作品は、愛の表現が露骨すぎて不評を買った同名の先行作品(断片)の改作とされるが、いずれにせよ『メデイア』などとともに、悲劇の原因を人間の内面に求めようとするこの詩人の代表作の一つといえよう。
[丹下和彦]
『松平千秋訳『ヒッポリュトス――パイドラーの恋』(岩波文庫)』▽『田中美知太郎・藤沢令夫他訳『エウリピデス篇Ⅱ』(『ギリシア悲劇全集4』所収・1960・人文書院)』