ヒ(砒)酸(読み)ひさん

改訂新版 世界大百科事典 「ヒ(砒)酸」の意味・わかりやすい解説

ヒ(砒)酸 (ひさん)
arsenic acid

化学式H3AsO4オルトヒ酸orthoarsenic acidともいう。五酸化二ヒ素As2O5を俗にヒ酸ということもある。

 ヒ素または三酸化二ヒ素As2O3硝酸に入れて酸化窒素の発生がやむまで熱して酸化する。一度ろ過してから130℃まで徐々に熱して蒸発濃縮し,100℃以下に冷却するとH3AsO4・1/2H2Oの結晶が得られる。これは無色の板状晶で,融点36℃,潮解性。水に易溶,エチルアルコールに可溶である。160℃以上に熱すると脱水して分解しAs2O5を生ずる。-30℃で結晶化するとH3AsO4・2H2O,100℃で濃縮を続けると無水和物H3AsO4の針状晶が生成する。三塩基酸であるが第1段の解離は酸解離定数pK1=2.3で,リン酸よりはいくぶん弱い酸である。酸性溶液中では中程度の強さの酸化剤として働く。各種ヒ素製剤の原料として用いられる。

オルトヒ酸塩MIH2AsO4,MI2HAsO4,MI3AsO4,メタヒ酸塩MIAsO3,およびピロヒ酸塩M14As2O7が知られている。これらの塩の結晶構造,溶解度は対応するリン酸塩に似ている。正塩MI3AsO4が水に可溶なのはアルカリ金属塩とタリウム(Ⅰ)塩のみである。また銀塩Ag3AsO4は特徴あるチョコレート色で,ヒ酸の検出定量に用いられている。Pb3(AsO42,Ca3(AsO42,PbHAsO4,CaHAsO4殺虫剤として用いられる。いずれも有毒である。
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百科事典マイペディア 「ヒ(砒)酸」の意味・わかりやすい解説

ヒ(砒)酸【ひさん】

化学式はH3AsO4。オルトヒ酸ともいう。五酸化二ヒ素As2O5を俗にヒ酸ということもある。比重2.0〜2.5,融点36℃。潮解性のある無色の板状晶。160℃で脱水が始まり,500℃で完全に脱水されて五酸化ヒ素As2O5となる。水に溶ける三塩基酸。ヒ素あるいは三酸化ヒ素As2O3を濃硝酸で酸化して濃縮すると結晶として得られる。各種ヒ素剤,染料製造に利用。

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