ヒ酸鉛(読み)ヒサンナマリ

化学辞典 第2版 「ヒ酸鉛」の解説

ヒ酸鉛
ヒサンナマリ
lead arsenate

正塩は,Pb3(AsO4)2であるが,市販品で通称ヒ酸鉛とよばれるのは,普通,酸性塩のヒ酸水素鉛PbHAsO4である.このほかに,ヒ酸二水素鉛,メタヒ酸鉛,二ヒ酸鉛がある.【】ヒ酸鉛:Pb3(AsO4)2(899.4).PbO2とAs2O5とを,るつぼ中で加熱すると得られる.単斜晶系結晶.正四面体型のAsO4とPbが,それぞれ層をつくり,2:3の割合で重なっている.純粋なら無色.密度7.30 g cm-3.As-O1.64~1.73 Å.融点1042 ℃.水に難溶.濃硝酸には分解して溶ける.有毒.[CAS 3687-31-8]【】ヒ酸水素鉛:PbHAsO4(347.1).天然にschulteniteとして産出する.Na3AsO4水溶液に過剰のPb(NO3)2を加えて反応させると得られる.単斜晶系板状結晶.密度8.94 g cm-3.約280 ℃ で二ヒ酸鉛になる.水に不溶,硝酸や水酸化アルカリ水溶液に可溶.有毒.農薬など,殺虫剤の成分として利用される.[CAS 7784-40-9]【】その他:ヒ酸二水素鉛;Pb(H2AsO4)2(489.1).三斜晶系.密度4.46 g cm-3.メタヒ酸鉛;Pb(AsO3)2(453.03).六方晶系.密度6.42 g cm-3.二ヒ酸鉛;Pb2As2O7(676.24).ピロヒ酸鉛ともいう.斜方晶系.密度6.85 g cm-3.酸に可溶.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒ酸鉛」の意味・わかりやすい解説

ヒ酸鉛
ひさんなまり
lead arsenate

鉛のヒ酸塩をいう。化学式Pb3(AsO4)2。ただし通常ヒ酸鉛というときはヒ酸水素鉛(Ⅱ)PbHAsO4、式量347.1をさし、殺虫剤、農薬として広く用いられる。

 酸化鉛(Ⅱ)PbOと五酸化二ヒ素As2O5との計算量混合物を熱すると、その量によって各種のヒ酸鉛、オルトヒ酸鉛Pb3(AsO4)2、メタヒ酸鉛Pb(AsO3)2および二ヒ酸鉛Pb2As2O7が得られる。どれも水に不溶の淡黄色結晶。Pb3(AsO4)2は融点1042℃、比重7.30。PbHAsO4は、ヒ酸ナトリウム水溶液に硝酸鉛(Ⅱ)を加えて得られる。無色の板状晶。水に不溶であるが、熱水中でゆっくり加水分解してヒ酸と塩基性塩となる。アルカリによって水溶性となるため、とくに消化液アルカリ性の鱗翅(りんし)目幼虫に殺虫効果があり、0.4%ぐらいの懸濁液として用いられる。

[守永健一・中原勝儼]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒ酸鉛」の意味・わかりやすい解説

ヒ酸鉛
ヒさんなまり
lead arsenate

PbHAsO4 。無色単斜晶系板状晶。比重 5.94,約 280℃で水を失いピロヒ酸塩に変る。水に不溶,硝酸およびアルカリに可溶。殺虫剤として農薬に用いられる。特に消化液がアルカリ性の鱗翅目幼虫の殺虫に適している。誤用を防ぐため青色に着色している。

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