フィリップ(Charles-Louis Philippe)(読み)ふぃりっぷ(英語表記)Charles-Louis Philippe

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フィリップ(Charles-Louis Philippe)
ふぃりっぷ
Charles-Louis Philippe
(1874―1909)

フランスの小説家。中部フランスのアリエ県セリィに貧しい木靴職人の子として生まれる。病弱と貧困のため学業を断念、20歳でパリに出て市役所の下級職員となり、34歳で世を去るまでこの職にあった。初めはマラルメと文通するなど象徴主義に関心をもったが、やがてトルストイドストエフスキーなどの影響を受け、社会主義思想の文芸誌『ランクロ』l'Enclosの同人となり、自己の体験に基づきながら、下層労働者・娼婦(しょうふ)など社会の底辺に生きる恵まれない人々の苦しみを描いていった。演劇をも愛し1897年「市民劇場」を主宰したが、たちまち官憲の弾圧を受けた。雑誌『NRF(エヌエルエフ)』にも創成期から参加し、ジッドらとも親交を結んだ。清新にして平易な文体と豊かな感受性をもってさまざまな大衆生活を描いた彼の文学は深い人間愛に根ざしており、ジロドゥーラルボージャリなど肌合いを異にする作家たちからも高く評価された。代表作に、地方出の青年の一娼婦に対する悲しくも無力な愛を描いた『ビュビュ・ド・モンパルナス』(1901)があるほか、『母と子』la Mère et l'Enfant(1900)、『ペルドリ爺(じい)さん』le Père Perdrix(1902)などの中編小説がある。死後『小さき町にて』(1910)、『朝のコント』(1916)の短編小説集が出版されたが、いずれも職人・工夫乞食(こじき)などの生活を気どりのない筆致で描いた珠玉の小品で、短編小説家フィリップの独特な魅力を伝えている。

[須藤哲生]

『淀野隆三訳『ビュビュ・ド・モンパルナス』『小さき町にて』『朝のコント』(岩波文庫)』『外山楢夫訳『若き日の手紙』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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