フィリップス(William D. Phillips)(読み)ふぃりっぷす(英語表記)William D. Phillips

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フィリップス(William D. Phillips)
ふぃりっぷす
William D. Phillips
(1948― )

アメリカの実験物理学者。ペンシルベニア州生まれ。高校1年が終わった夏休みにデラウェア大学で物理実験を体験し、指導した大学院生に「実験物理は趣味と実益を兼ねられる」といわれて実験物理に目覚める。1966年にジュニアタ大学に進学。4年のときアルゴンヌ国立研究所で電子スピン共鳴の実験をし、実験物理がますます好きになる。卒業後、マサチューセッツ工科大学MIT)で水素メーザーの実験を行い、1976年に博士号を取得。さらに2年間MITで研究を続けた後、1978年に国立標準局(現、国立標準技術研究所)に就職した。

 1980年代初めに、磁場を使って気体原子の位置を動かないように固定する技術を開発し、1985年にはナトリウム原子を使って実証した。さらにS・チューが開発した、レーザーで原子の温度を下げて動きをおさえる手法を導入し、それまでの理論では考えられなかった極低温にまで冷やすことに成功。フランスのC・コーエンタヌジの研究グループと共同して、ヘリウムの気体原子を秒速2センチメートルのスピードまで冷却、減速することに成功した。原子を捕捉(ほそく)するこの技術で、原子そのものの姿を観察し、原子時計精度を上げる研究も進んだ。「レーザー光による原子の冷却と捕捉」により、チュー、コーエンタヌジとともに1997年のノーベル物理学賞を受賞した。

[馬場錬成]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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