改訂新版 世界大百科事典 「フッ(弗)化水素」の意味・わかりやすい解説
フッ(弗)化水素 (ふっかすいそ)
hydrogen fluoride
化学式HF。常温では無色,発煙性の液体。気体は無色,固体は白色。密度は液体で1.0015g/cm3(0℃),固体で1.658g/cm3(-87.2℃)。融点は-83.0℃,沸点は19.5℃。分子間の強い水素結合のため,低分子量の物質にもかかわらず,沸点が異常に高い。そのため気体における見かけの分子量は20よりはるかに大きく,温度,圧力に依存して一定値を与えない。90℃ではHFに相当する値を,また32℃ではH2F2とH3F3との中間の値をとる。電子線回折法による結果では,低温では(HF)n(n=2~5)程度に重合していると考えられている。粘度は比較的小さく(-68.75℃で0.914センチポアズ,0℃で0.256センチポアズ),比誘電率は著しく大きい(-70℃で173.2,0℃で83.6)。高温におけるHFの双極子モーメントは1.91デバイ(双極子モーメントの単位で,CGSesuの10⁻18倍)と測定されている。気体の電子線回折の結果ではF…H-F…H-F…といった折れ曲がった直線形構造をもっており,F-H…F結合におけるH-F結合は1.00Å,H…F(水素結合)距離は1.55Åで,F…F…F結合角は140度である。固体は正方晶系に属する。H-F結合はイオン結合性が強い(約60%)。H2とF2とを直接反応させるか,KHF2溶融塩をフッ素が発生するまで電解して乾燥させたのち加熱分解してHFを得る。工業的には蛍石に硫酸を加えて熱し,生成物を蒸留して得る。フッ素化合物の製造原料,触媒などに用いられる。
執筆者:大滝 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報