フリード(読み)ふりーど(英語表記)Michael Fried

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フリード」の意味・わかりやすい解説

フリード
ふりーど
Michael Fried
(1939― )

アメリカの美術批評家、美術史家。ニューヨーク生まれ。1959年プリンストン大学卒業。その後奨学生として2年間をオックスフォード大学で過ごし、1962年の帰国後はハーバード大学で学ぶ。プリンストン大学ではフランク・ステラ、またオックスフォード留学後しばらくし滞在したロンドンではアンソニー・カロと、後に自身が高く評価することになる作家たちと出会う。またこれらの大学に在学中から、いくつかの雑誌に美術批評寄稿。作品の緻密な形式分析にもとづく、ときに高踏的なその批評は、彼の「師」クレメント・グリーンバーグの圧倒的な影響下に書かれている。1958年、フリードはグリーンバーグに、自身が美術批評をするうえでのアドバイスを依頼する手紙を書いており、そのときから2人の、主として大学を離れたところでの師弟関係が始まった。またフリードはいっぽうで正統的な美術史研究にも従事し、ハーバード大学では論文「マネの源泉――1859年から1865年までのその芸術の諸側面」Manet's Sources; Aspects of His Art, 1859-1865(1969)により博士号を得た。

 批評家としてのフリードの重要な業績は、1960年代なかばに集中する。当時アメリカの美術界は、1950年代の抽象表現主義の熱狂のあと、次代のアートの主導権をめぐってミニマル・アートやポップ・アートなどが競い合い、活気に満ちていた。そのなかでフリードは、ステラやカロに、モーリス・ルイス、ジュールズ・オリツキーJules Olitski(1922―2007)らを加えた、フリードいうところの「モダニズム芸術」に連なる作家たちの芸術だけを認め、彼らの作品を批評によって強力に後押しする。

 だがそのフリードの批評を有名にしたのは、支持する芸術家について書いた批評ではなく、ミニマル・アートを激しく批判した1967年の論文「芸術と客体性」Art and Objecthoodだった。そこでフリードは、彼が優れた芸術と信じる「モダニズム」の芸術と、それに連なるようにみえながらしかし決定的に劣った芸術としてのミニマル・アートを峻別しようとした。

 フリードによれば、ミニマル・アートの作品は、なんの変哲もないただのものとしての自分を、ちょうど舞台上のできごとと観客との関係のように、鑑賞者の眼前に投げ出す。それは、照明配置など展示空間のある種の仕立てにより意味ありげに見えたとしても、結局は作品としての意味がからっぽな、ただの「もの」にすぎない。彼はミニマル・アートの、鑑賞者を含む周囲環境に依存するこの性質を「演劇性」theatricalityとよび、芸術の堕落であると断じた。

 一方、カロの作品に代表されるモダニズムの芸術は正反対である。その作品は自分を見る鑑賞者など存在しないかのようであり、ひたすら自分自身に「没入」absorptionする。さらに存在の仕方という点で、日常見るものやミニマル・アートの作品とは決定的にかけ離れている。なぜならそこでは、本来時間を費やさなければ見わたすことのできないはずの、作品がはらむ芸術としての意味が、一瞬のうちに見わたせるからである。

 この区分については、論文の発表直後から賛否両論が寄せられるとともに、その後も芸術全般に関わる問題として、さまざまな立場から議論された。フリード自身はこの論文を最後に、同時代美術の批評からは撤退し、「演劇性」や「没入」といった概念を、18世紀から19世紀にかけての「モダニズム」の起源の分析に適用し、さらに深化させる方向へ向かう。フリードによれば、シャルダン、クールベ、マネらの芸術は、いずれもこの「演劇性」と「没入」の対立という問題をどう考え、乗り越えてゆくかということから生まれている。『没入と演劇性――ディドロの時代の絵画と鑑賞者』Absorption and Theatricality; Painting and Beholder in the Age of Diderot(1980)、『クールベのリアリズム』Courbet's Realism(1992)、そして『マネのモダニズム――1860年代の絵画における直面』Manet's Modernism; Or, the Face of Painting in the 1860s(1998)というフリードの3冊の著書は、それぞれの画家たちの作品を緻密に分析しながら、その形成過程を論じたものである。

[林 卓行]

『川田都樹子・藤枝晃雄訳「芸術と客体性」(『批評空間』臨時増刊号『モダニズムのハード・コア――現代美術批評の地平』所収・1995・太田出版)』『Absorption and Theatricality; Painting and Beholder in the Age of Diderot (1980, University of California Press, Berkeley)』『Courbet's Realism (1992, University of Chicago Press, Chicago)』『Manet's Modernism; Or, the Face of Painting in the 1860s (1998, University of Chicago Press, Chicago)』『林道郎著「マイケル・フリード――批評と歴史」(『美術手帖』1996年4月号所収・美術出版社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵mini 「フリード」の解説

フリード

本田技研工業株式会社が製造・販売している小型ミニバン(3列シートの自動車)のシリーズ名。運転しやすい車体サイズで室内空間にゆとりをもたせた設計となっている。初代は2008年に発売され1か月で目標の5倍にあたる2万台を売り上げ、同年下半期のミニバン販売台数1位となった。その後、改良や新グレード車の追加、メジャーチェンジが行われ、11年10月にはハイブリッド車も追加された。

(2012-12-7)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

デジタル大辞泉プラス 「フリード」の解説

フリード

ホンダ(本田技研工業)が2008年から製造、販売している乗用車。5ドアの小型ミニバン。5、8人乗り。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

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