ブタジエン(英語表記)butadiene

翻訳|butadiene

精選版 日本国語大辞典 「ブタジエン」の意味・読み・例文・類語

ブタジエン

〘名〙 (butadiene) 二重結合二個を有する炭素原子四個の鎖状炭化水素化学式は CH2=CHCH=CH2 二種類の異性体があるが、単にブタジエンといえば1・3ブタジエンをさす。合成ゴム原料として重要。

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デジタル大辞泉 「ブタジエン」の意味・読み・例文・類語

ブタジエン(butadiene)

エチレン系炭化水素の一。炭素4個を含み、2種の異性体がある。ふつう一位と三位とに二重結合をもつもの(1,3-ブタジエン)をさす。無色・無臭の気体。容易に液化。工業的には石油分解ガスから抽出し、合成ゴムの原料として重要。分子式C4H6 示性式CH2=CH-CH=CH2
[補説]異性体の1,2-ブタジエン(メチルアレン)はCH2=C=CH-CH3

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改訂新版 世界大百科事典 「ブタジエン」の意味・わかりやすい解説

ブタジエン
butadiene

共役二重結合をもつ最も簡単な脂肪族鎖式不飽和炭化水素(アルケン)。ふつうは1,3-ブタジエンCH2=CH-CH=CH2をさすが,ほかに異性体として1,2-ブタジエンCH2=C=CH-CH3が存在する。石油化学工業では,ブチレン脱水素反応あるいはナフサ分解プロセスから得られるC4留分を原料として抽出分離によって生産される。その用途は,おもに合成ゴムプラスチックであるが,ほかにヘキサメチレンジアミン,1,4-ブタンジオール,スルホランクロロプレンなどの原料となる。

常温・常圧では気体であり,無色で特別の臭気をもつ。融点-108.915℃,沸点-4.413℃。可燃性で,空気中では2~12%(容量)の濃度範囲で爆発的に燃焼する。水には溶けないが,アルコールやエーテルには可溶。二重結合をもっているので化学反応性が高く,とくに重合しやすい。貯蔵時には重合防止剤,酸化防止剤を添加する必要がある。

ブタジエンの合成は,現在は,ブタンまたはブチレンの脱水素反応による。反応温度600~650℃,ほぼ常圧下で,水蒸気を希釈剤としてブタンまたはブチレンを触媒上に通す。触媒としては,アルミナを担体とした酸化クロム酸化鉄などが用いられる。また,ナフサ分解のC4留分から抽出分離してもつくられる。この中には1,3-ブタジエンが40%前後含まれているが,ほかに沸点の接近したいろいろな炭化水素が含まれているので,フルフラール,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,N-メチルピロリドンなどの溶媒を加え,比揮発度を変化させて蒸留を行う。

 日本では年間およそ100万tのブタジエンが生産される。工業上の重要な誘導品を図に示す。
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化学辞典 第2版 「ブタジエン」の解説

ブタジエン
ブタジエン
butadiene

C4H6(54.09).CH2=CH-CH=CH2.二重結合の位置により,1,3-ブタジエンと1,2-ブタジエンの2種類の異性体が存在するが,工業的には前者のほうがはるかに重要なので,単にブタジエンという場合は,1,3-ブタジエンをさす.石油系炭化水素の分解ガス中に存在する.従来,n-ブタンおよびn-ブテン類の脱水素により製造されており,アメリカでは現在でも行われているが,わが国ではナフサ分解によるエテンの生産が大規模に行われ,そこで副生するB-B留分より抽出蒸留で分離精製する方法に完全に転換されている.構造は,共役二重結合を有するもっとも簡単なオレフィンである.原子間距離C=C 0.137 nm,C-C 0.147 nm と二重結合間隔はエテンの場合より長く,C-Cはブタンの場合より短い.このことはブタジエンの共鳴状態に対する一つの論拠となっている.また,C-C結合における分子内回転より,シス形構造とトランス形構造が考えられ,後者のほうが約17 kJ mol-1 安定である.弱い芳香性を有する引火性の液化しやすい無色の気体.融点-108.92 ℃,沸点-4.41 ℃.爆発範囲2.0~11.5体積%.エタノール,エーテルに可溶,水に不溶.共役した二重結合をもつために化学反応性は高く,とくに重合活性が高いため,貯蔵には重合防止剤および酸化防止剤の添加が必要である.石油化学の重要な原料の一つである.おもにスチレン-ブタジエンゴム(SBR),アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴムなどの合成ゴムABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)などの樹脂の原料となる.ほかにクロロプレンアジポニトリル,1,4-ブタンジオールなどの合成原料としても用いられる.[CAS 106-99-0]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブタジエン」の意味・わかりやすい解説

ブタジエン
ぶたじえん
butadiene

ジエン(炭素間二重結合を2個もつ化合物の総称)のもっとも簡単なもの。炭素4個からなる直鎖でしかも2個の不飽和結合を含む炭化水素。不飽和結合のある位置により1,2-ブタジエンと1,3-ブタジエンの2種の異性体がある。前者はメチルアレンともよばれ、通常、ブタジエンというと後者をさす。ゴムはイソプレン(2-メチルブタジエン)が重合した構造をもつので、1920年代末にドイツでブタジエンを原料として合成ゴムのブナ(BUNA)が発明された。これを契機としてブタジエンの製造技術の開発が進んだ。さらに太平洋戦争初期に日本が東南アジアを占領してアメリカへの天然ゴムの供給を断ったことが、アメリカにおける合成ゴムの開発を促進したといわれる。現在では、ブタジエンは石油から製造されている。ナフサの分解でエチレンを製造する際に生ずる炭素数4個の留分から得るか、あるいはブタンまたはブテンの脱水素により製造する。可燃性で、常温では無色有毒の麻酔性のある気体であるが、圧力を加えると容易に液化する。

 日本では年間約100万トン生産されているが、おもに合成ゴムの原料として利用される。これとスチレンとの共重合体はスチレン・ブタジエンゴム(SBR)で汎用(はんよう)合成ゴムとして、またアクリロニトリルとの共重合体(NBR)は耐油性の合成ゴムとして、アクリロニトリルおよびスチレンの双方との共重合体(ABS)は耐衝撃性の合成樹脂として利用される。また、ブタジエンの重合体のポリブタジエン(PBR)も汎用の合成ゴムとして用いられる。

[徳丸克己]

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百科事典マイペディア 「ブタジエン」の意味・わかりやすい解説

ブタジエン

化学式はCH2=CH−CH=CH2。無色無臭の可燃性気体。融点−108.9℃,沸点−4.4℃。有機溶媒に可溶。n‐ブタン,n‐ブチレンの脱水素により得られる。また,ナフサ分解によるエチレン製造時に副生するC4留分から抽出される。合成ゴム(ブタジエンゴムSBRなど),合成樹脂(ABS樹脂など),クロロプレン,アジポニトリルなどの原料として重要。
→関連項目石油化学ブナ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブタジエン」の意味・わかりやすい解説

ブタジエン
butadiene

化学式 C4H6 。二重結合2個をもつ不飽和炭化水素で,通常1,3-ブタジエン CH2=CHCH=CH2 を意味する。無色,無臭,引火性のガス。沸点-4.41℃。石油留分を熱分解してエチレンを製造する際の生成ガスから分離する方法や,ブタンやブテンの脱水素法などにより工業的に大量製造され,合成ゴム製造原料に用いられる。このほかに異性体として1, 2-ブタジエン CH2=C=CHCH3 がある。

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