ブロードバンド放送(読み)ぶろーどばんどほうそう(英語表記)Broadband Broadcasting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブロードバンド放送」の意味・わかりやすい解説

ブロードバンド放送
ぶろーどばんどほうそう
Broadband Broadcasting

大量の情報を広帯域ブロードバンド通信回線を利用してデジタル放送サービスを行うこと。映像データは光ファイバー加入者線(FTTH)や非対称デジタル加入者線(ADSL)を用いて家庭内テレビに配信される。通信回線には専用回線のほかインターネットやインターネット・プロトコル電話(IP電話)の広帯域回線が利用できる。

 ブロードバンドはもともとアメリカのCATV業者が使った光CATV網利用サービスのキャッチフレーズ。明確な定義はないが、伝送速度メガビット毎秒Mbps)級以上のものをいう。

 従来アナログ回線での毎秒5キロビット(kbps)やISDN回線での毎秒64キロビットの伝送速度に比べ、ADSLが最大毎秒50.5メガビット(上り最大毎秒12.2メガビット)、FTTHでは最大毎秒100メガビットの接続が可能である。このため、広帯域の必要なCATV信号の伝送はもちろん、インターネットでIPパケットに分けて伝送された多量の信号もユーザーの近くにある配信用のサーバーで整え、スムーズな高品質映像に戻し提供されるので、地上波テレビ放送と同様、番組表に従った受像のほか、好きな番組を欲しいときに呼び出すことのできるビデオ・オン・デマンドVOD)など、双方向性のサービスが受けられる。

 ブロードバンド放送の利用方式には、手元に一括して記録した後に聴取を開始させるダウンロード方式、その都度再生に必要なデータだけを送信させるストリーミング方式、事前に放送内容を収録させておきリクエストに応ずるオン・デマンド方式、カメラ・マイクなど収録機器と直結配信するライブ(生)放送などがある。とくに、FTTHによる受信では、中継局と自宅間距離や宅内ノイズにより伝送速度が影響されやすいADSLとは異なり、スムーズなダウンロードが可能で、映像の乱れはない。2005年に始まったインターネット上の無料動画配信サービス「GyaO(ギャオ)」(2009年よりGyaO!)が1年で1000万人の視聴登録者を得たことから急速に普及した。

 2002年(平成14)に施行された、有線通信と放送の融合を図った電気通信役務利用放送法により公衆向けに電気通信事業者などが提供している施設を利用することができるようになったため、ハード、ソフトがそろわない多くの業者が放送に参加している。伝送方式には従来のケーブルテレビ(CATV)と同様なCATV方式と、インターネットを利用するIP方式がある。IP方式は有線放送でない自動公衆送信の扱いとなり、著作権に対する配慮が必要となる。

 現在、有線役務利用放送を行う事業者にはCATV方式ではケイ・キャット、近鉄ケーブルネットワーク、東京べイネットワークなどが、IP方式ではビー・ビー・ケーブル、MOVIE SPLASH、アイキャストなどがあり、NTT東日本、NTT西日本もサービスを開始している。

[岩田倫典]

『中野明著『ブロードバンド社会がやってくる!衝撃の超高速インターネット』(2000・PHP研究所)』『『日経ニューメディアブックス 詳説 通信・放送統合ビジネスの新潮流』(2004・日経BP社、日経BP出版センター発売)』『情報通信総合研究所編『情報通信アウトルック2003 ブロードバンド・ユビキタス時代に向けて』『情報通信アウトルック2006 IT大融合の時代』(2002、2005・NTT出版)』『西正著『図解放送業界ハンドブック』(2007・東洋経済新報社)』『イノウ編著『世界一わかりやすい通信業界の「しくみ」と「ながれ」』(2010・自由国民社)』

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知恵蔵 「ブロードバンド放送」の解説

ブロードバンド放送

光ファイバーやADSL(非対称デジタル加入者線)など、ブロードバンド(高速大容量)回線を使って映像や音声を流すサービスの総称。家庭のテレビで見る有料のIPマルチキャスト放送や、パソコンでインターネット上のホームページを開いて映像を見られるものなど、その種類は多様になってきた。後者では、有線放送大手のUSENが2005年4月に始めた「GyaO」(ギャオ)が06年6月に視聴登録者1000万人を突破し、注目を集めた。ニュース、ドラマ、スポーツなど多彩な番組がCMつきで流れ、「完全無料のパソコンテレビ」が売り文句だ。06年6月には、大手広告会社4社と民放キー局5社が出資するプレゼントキャスト社が動画専門のポータル(玄関)サイト「DOGATCH(ドガッチ)」を立ち上げた。無料で民放各局のニュースなどを見ることができるほか、サッカーのワールドカップドイツ大会全試合のハイライト映像を無料配信するなど、放送界がネット配信に力を入れ始めたことを示す象徴的存在である。これらの無料映像の配信には、視聴者がデータを受信しながら再生して見られる「ストリーミング」(streaming)という技術が使われている。

(隈元信一 朝日新聞記者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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