ヘッス鉱(読み)へっすこう(英語表記)hessite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘッス鉱」の意味・わかりやすい解説

ヘッス鉱
へっすこう
hessite

テルル化銀の鉱物。ヘンリー鉱henryite(化学式Cu4Ag3Te4)とともにヘンリー鉱‐ヘッス鉱群を構成する。自形はきわめてまれ。一方向に伸びた短柱状で複雑な端面と柱面をもつ。浅~深熱水性鉱脈型金・銀鉱床に産し、またある種の噴気性堆積(たいせき)型層状硫化鉄鉱床で微量成分をなす。日本では浅い鉱床の例として新潟県佐渡(さど)市佐渡鉱山閉山)、深い鉱床の例として、岩手県気仙(けせん)郡住田(すみた)町野尻(のじり)鉱山(閉山)から記載されている。

 共存鉱物は、黄鉄鉱黄銅鉱、方鉛鉱、安四面銅鉱、テルル鉛鉱ペッツ鉱、自然金、自然テルル、シルバニア鉱石英方解石など。同定は肉眼的なものが少ないのでわかりにくいが、粉末になりにくく、可切性がある。錆(さ)びると暗灰色になる。高温変態が知られており、転移点155℃、天然に産するものはすべて低温型で、とくにこれを区別する必要のあるときはα(アルファ)‐Ag2Teと書く。なお高温変態(β(ベータ)‐Ag2Te)は等軸晶系に属する。命名ロシアサンクト・ペテルブルグのスイス系ロシア人化学者ゲルマン・ヘンリー・ヘスGermain Henri Hess(1802―1850)にちなむ。

加藤 昭 2018年7月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のヘッス鉱の言及

【銀鉱物】より

…銀を数%以上含む鉱物は約60種知られている。重要な銀鉱物としては,自然銀native silver Ag,輝銀鉱argentite Ag2S,角銀鉱cerargyrite AgCl,ナウマン鉱naumannite Ag2Se,安銀鉱dyscrasite Ag3Sb,ジャルパ鉱jalpaite Ag3CuS2,硫ゲルマン銀鉱argyrodite Ag8GeS6,硫シャク(錫)銀鉱canfieldite(別名,カンフィールド鉱) Ag8SnS6,ゼイ(脆)銀鉱stephanite(別名,ゼイ安銀鉱) Ag5SbS4,濃紅銀鉱pyrargyrite Ag3SbS3,淡紅銀鉱proustite Ag3AsS3,雑銀鉱polybasite(別名,輝安銅銀鉱) (Ag,Cu)16Sb2S11,ヒ(砒)雑銀鉱arsenpolybasite (Ag,Cu)16As2S11,ヘッス鉱hessite(別名,ヘッサイト,テルル銀鉱)Ag2Teなどがある。このほか四面銅鉱や方鉛鉱には銀を含むものがあり,鉱床内に多産する場合にはシルバーキャリアとして重要視される。…

【テルル鉱物】より

…テルルはまれに元素鉱物の自然テルルとしても産するが,普通は金,銀,銅,鉛,鉄,ビスマスなどのテルル化物として産し,その鉱物の種類は非常に多い。おもなものとして針状テルル鉱sylvanite AuAgTe4,カラベラス鉱calaverite AuTe2,クレンネル鉱krennerite AuTe2,ペッツ鉱petzite(テルル金銀鉱ともいう)AuAg3Te2,ヘッス鉱hessite Ag2Te,硫テルルソウ鉛鉱tetradymite Bi2Te2S,アルタイ鉱altaite(テルル鉛鉱ともいう)PbTe,コロラドアイトcoloradoite HgTe,リッカルド鉱rickardite Cu4Te3,さらには酸化鉱物のテルル石tellurite(酸化テルル鉱ともいう)TeO2などがある。金鉱石として重要ないわゆるテルル金鉱はカラベラス鉱,クレンネル鉱,針状テルル鉱など銀を含む金のテルル化鉱物からなる鉱石で,浅‐中熱水性金銀鉱脈に自然金や他の銀鉱物とともに産する。…

※「ヘッス鉱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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