ヘビクイワシ(読み)へびくいわし(英語表記)secretary bird

翻訳|secretary bird

改訂新版 世界大百科事典 「ヘビクイワシ」の意味・わかりやすい解説

ヘビクイワシ (蛇喰鷲)
secretary-bird
Sagittarius serpentarius

長くじょうぶな脚で地上を歩きながら獲物をつかまえるタカ目ヘビクイワシ科の鳥。この科はヘビクイワシ1種だけからなる。くびの後ろに長い20枚の先端の黒い冠羽があり,英名はその姿が,羽根ペンを耳にはさんだり,かつらにさしたりした18世紀ころのヨーロッパの書記官に似ていることによる。アフリカサハラ砂漠より南に広く分布する。草原を好み,森林や,やぶの深いサバンナにはすまない。全長約120cm,頭高約1m,雄のほうがやや大きい。くびも長く,草原に立った姿はツルのように見える。羽色は全体に灰色で,風切とももは黒く,尾には黒い横斑がある。尾羽は中央の2枚が,他の2倍ちかく長い。

 単独かつがいで広いテリトリーをもち,日中,1時間に4~5kmの速さで歩き回る。獲物は,おもに小型哺乳類,大型昆虫類をとり,ヘビ,トカゲなどの爬虫類両生類,鳥なども捕食する。小さなものはくちばしでつかまえ,比較的大きなものは,まず足で踏みつけて殺す。ヘビを捕食するときも同様だが,足でおさえこみ,翼で体をまもりながらくちばしでつついたり,またくちばしではさんで地面にたたきつけて殺す。ヘビ毒に対する免疫性はないらしい。外敵から逃げるときは走って逃げ,めったに飛ばないが,飛んだときは上昇気流をとらえ巧みに帆翔(はんしよう)する。巣はアカシアのようにとげがあり樹冠が平らな樹木の上に,枝と草を積み重ねてつくり,夏に1腹2~3個の卵を産む。渡りはしない。アフリカでは,ネズミやヘビを駆除するため農場でも保護され,ペットとしても飼われる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘビクイワシ」の意味・わかりやすい解説

ヘビクイワシ
Sagittarius serpentarius; secretarybird

タカ目ヘビクイワシ科。1科 1属 1種。全長 112~152cm。タカ類では特殊な脚の長い形態で,頸は長くないが,遠くからだとツル類のように見える。羽色背面が灰色で,腹面は白っぽい灰色である。風切と腿,後頭の長い冠羽(→羽冠)が黒く,眼のまわりにオレンジ色の皮膚が裸出している。アフリカサハラ砂漠以南に分布する。サバナや草原にすみ,爬虫類や昆虫類,ネズミ,鳥やその雛,ウサギなどを食べる。和名はヘビを食べることに由来するが,主食ではない。獲物を歩きまわって探すので,ほかのタカ類と違って爪が鋭くない。大きな獲物は長い脚を利用して足でたたいて弱らせてとる。求愛の際には,タカ類によく見られる帆翔しながらの壮大なディスプレイをする。アカシアなどの見晴らしのよい樹冠の上に,直径 2mをこえる巣をつくる。(→ワシ猛禽類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビクイワシ」の意味・わかりやすい解説

ヘビクイワシ
へびくいわし / 蛇喰鷲
secretary bird
[学] Sagittarius serpentarius

鳥綱タカ目ヘビクイワシ科の鳥。この科は、ヘビクイワシ1種だけしかない特殊な科である。アフリカのサハラ砂漠以南に分布する。全長約1メートル、嘴(くちばし)は鋭く曲がる。後頭には十数本の冠羽があり、これが羽根ペンをかつらに挿した中世ヨーロッパの書記官を連想させることから、ショキカンチョウ(書記官鳥)の別名をもつ。足は著しく長い。頭部から体は灰色で、目の周囲は赤く、腰、腹、もも、風切(かざきり)は黒い。中央尾羽は長く伸びて灰色、先端が白くその内側に黒帯がある。草原にすみ、長い足で歩き回って獲物を探す。ヘビ、トカゲ、鳥の雛(ひな)、大形の昆虫、小形の哺乳(ほにゅう)類などをみつけると、近づいて強く踏みつける。一度踏みつけると1メートルぐらい飛びのき、獲物の周囲を回ってふたたび近づき、片足で強打を加える。これは毒ヘビを殺すのに安全な方法である。狩りは、つがいや家族でいっしょに行うことが多い。上が平たくなった木の上に止まって眠るのが普通である。繁殖期には縄張りをもって生活する。高木の枝上に小枝で皿形の巣をつくり、2、3日間隔で1腹2、3個の卵を産む。雌だけが抱卵し、抱卵日数は約45日である。

[高野伸二]


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